10月23日に東京メトロが新規上場することが決まり、ソフトバンク以来の大型案件になりそうだ。
当選株数が多いので、IPOに申し込めば公募価格で買える可能性が高い。
しかし、上場後に株価が下落する恐れもあり、買い判断を迷っている個人投資家も多いだろう。
公募で買うべきかどうかは、上場後の株価推移がどうなるかによって判断が分かれる。
本記事では、東京メトロという銘柄のスペックを確認した上で、過去の類似のIPOなどを参考に、上場後の株価推移を予想していく。
(追記)仮条件が1,100~1,200円に決まりました。上限である1,200円での公募となる可能性が高いです。
目次
東京メトロ株式の基本スペック
株主還元(配当+優待)
東京メトロは株主還元を厚く設定しており、注目を集める一因となっている。
以下が発表されている株主還元だ。
上記の株主優待はざっくり紹介しています。詳細はこちらをご覧ください。。
株主優待の価値としては、全線きっぷを利用する区間によって変わる。
東京メトロの片道の最大料金は330円だが、この最大料金で6枚を使用した場合、優待の価値は1,980円だ。
200株(22万円)での優待利回りは【1,980円÷22万円×100(%)=0.9%】となる。
配当+優待の総合利回りは、最高で4.5%、現実的には4.0%くらいになりそうだ。
乗車証の優待以外については汎用性が低いため、本記事では基本的に割愛させてもらいます。
業績と株価指標
次に、株式価値の源泉となる業績を確認していこう。
以下が前期の通期業績だ。
営業利益率は20%近く、鉄道関連としては高い利益率を誇る。
新型コロナ禍では一時的に赤字転落したが、ここ数年の業績は安定的に伸びており、引き続き好業績が期待されている。
上の業績をもとに株価指標を計算した結果が次だ。
注目なのは配当利回りの3.64%だ。
鉄道関連は業績安定でディフェンシブ性が強く、配当利回りは1%台が通常である。
その点、東京メトロの配当利回りは通常の2~3倍もの数字になっている。
需給
株価形成で重要となる需給も確認しておこう。
上場前の時点では、東京メトロを保有しているのは日本政府と東京都だけだ。
それぞれ半分の持ち株を上場時に放出するため、市場に流通するのは発行済株式数の50%となる。
大株主 | 保有比率 (売却前) | 保有比率 (売却後) |
---|---|---|
日本政府 | 53.4% | 26.7% |
東京都 | 46.6% | 23.3% |
発行済株式数は5億8,100万株であることから、流通株式数は2億9,050万株、総額3,195億円となる。
金額こそ大きいが、業績安定、高配当のインフラ銘柄とあって、機関投資家からの買い需要は強いと予想されている。
また、個人投資家からも長期投資の対象銘柄として選好されるだろう。
総じて、需給面での懸念は小さいと考えている。
企業としての評価
最後に、東京メトロに対する評価を紹介しておこう。
日本経済新聞や四季報の記事を参考にした。
高収益の最強私鉄との評価が目立った。
一方、鉄道への依存度が高く、成長余地に乏しいという声もある。
総じて、中長期投資の銘柄として魅力的という好意的な評価が多数派だった。
想定価格1,100円は高い?安い?
私鉄大手4社と比較
公募価格で買うかどうかを判断するには、公募価格が割高なのか割安なのかを検討する必要がある。
そこで、私鉄大手4社と比較をしてみよう。
以下が私鉄大手4社の主なデータだ。
比較対象としては、私鉄として輸送人員2位の東急、同3位の東武鉄道、そして東京メトロと想定時価総額が近しい京成電鉄、近鉄を選んだ。
ちなみに、私鉄の輸送人員1位は東京メトロです。
私鉄大手の中では高配当
東京メトロが特に際立っているのは配当利回りの高さだ。
最も高い東武鉄道では利回り1.98%、他は1%付近である。
それに対し、東京メトロの配当利回りは3.64%もあり、配当面で優位であることが分かる。
東京メトロの上場後は、どうせ鉄道株を買うなら高配当の東京メトロ、という流れになることも期待できる。
(追記)仮条件の上限1,200円で計算すると配当利回りは3.34%となり、やはり高配当の水準です。
PERは平均よりやや割安
ここで、東京メトロの株価指標を再掲しておく。
東京メトロの実績PERは13.8倍だが、他の銘柄と比べて特段割安という訳ではない。
やや割安、という印象だろうか。
東急は18.7倍と高いが、不動産という高収益事業を持っていることが大きい。
(追記)仮条件の上限1,200円だと実績PERは15倍となり、妥当な水準です。
PBRは明確に割安水準
東京メトロのPBRは1倍を割り込んでおり、その点だけでも割安感がある。
加えて、比較4社の平均PBRは1.27倍であり、対する東京メトロは0.96倍だ。
したがって、PBRの観点では明確に割安水準だと判断して良いだろう。
今後、株主還元の強化などに舵を切れば、さらに割安感が増すことも期待できる。
(追記)仮条件の上限1,200円だと実績PBRは1.05倍となり、やはり割安な水準です。
株価1,100円は割安と判断
以上を踏まえると、東京メトロの株価1,100円は割安と判断してよさそうだ。
配当利回りが3.6%と群を抜いて高いことに加え、PER・PBRの面でも若干割安な印象である。
そのため、他の鉄道関連銘柄よりも選好され、株価は底堅い展開が期待できるだろう。
仮条件は1,100~1,200円となりましたが、上限の1,200円となっても割安であるという判断は不変です。
過去の政府案件の株価推移
過去の政府案件の4銘柄
今回の東京メトロの上場は、日本政府の資金捻出という面もある。
過去にも同様の案件があったため、それらの株価が上場後にどうなったのかをチェックしよう。
集めた過去の上場案件は次の4銘柄だ。
日本郵政・ゆうちょ銀行の株価推移
まず、日本郵政とゆうちょ銀行は親子なのでまとめて見ていく。
以下が両社の上場後の株価推移だ。
どちらも2015年11月に上場したが、2ヵ月後に急落した。
原因は、相場全体が崩れたことと、IPO時に買った個人投資家の利益確定売りが重なったことだ。
その後もダラダラと下げる展開となり、公募価格よりも安い時期が長く続いた。
これら2銘柄で1兆円を超えるIPOとなり、需給が悪化したことが株価低迷の要因だ。
政府が保有している銘柄は時価総額が大きく、上場時の売出し金額も大きくなる。
そのため、政府案件は需給面での懸念がつきまとうだろう。
J-Power(電源開発)
次に、発電事業を手掛けるJ-Power(正式社名 電源開発)だ。
J-Powerは2004年に上場し、政府保有分が全て売却された。
エネルギー関連というインフラ銘柄であるため、その点において東京メトロと近しい。
そんなJ-Powerだが、上場当初こそ業績好調で株価を上げたものの、20年経った現在も上場時の公募価格(2,700円)と同水準にとどまる。
業績は悪くないが、好材料も少なく、割安で放置されてしまっている地味な銘柄となっている。
上場当初は注目されても、何年も経つうちに注目度が下がり、冴えない株価になることがあるという一例だ。
JT(日本たばこ産業)
最後は高配当銘柄として人気のJT(日本たばこ産業)だ。
JTは1994年に上場し、その時に政府保有分の一部が売却された。
それ以降、4度にわたる売却を経て、現在の政府持ち分は33.34%となっている。
そんなJTの株価推移だが、上場後の株価は総じて好調だ。
たばこ産業は斜陽産業とは言われるが、業績は底堅く、高利回りも手伝って株価は上昇傾向にある。
2013年は過去最大の大量売却であったが、それすらも吸収してしまった。
東京メトロにおいても、上場後の政府・東京都の合計持ち分は50%であるため、将来的に徐々に売却される可能性が高い。
しかし、JTの例でも分かったように、上場後に大量売却されても株価が下落するとは限らないようだ。
まとめ:東京メトロは買いか?
ここまで、東京メトロという銘柄の特徴、想定価格1,100円が高いのか安いのか、そして他の政府売却案件の株価推移を確認した。
総じて、想定価格1,100円でのIPOは買いだと判断して良いだろう。
私鉄最強と呼ばれる収益力にも関わらず想定価格は割安水準だ。
過去の政府売却案件については下落した例があり、若干心配な面はある。
しかし、長期的な株価形成は業績に依存すると考えられ、JTの例のように、東京メトロの株価は底堅い展開になるだろう。
とはいえ、機関投資家からの需要次第では想定価格1,100円を上回ってのIPOとなる場合もある。
その時は、変更後の株価で割安感を再チェックする必要がある。
結論から言って、株価1,100円なら買いだと考えています。配当利回りが高い上、同業他社と比べて大きなマイナス要素が無いためです。根拠については本文をどうぞ。