話題の東京地下鉄(東京メトロ)がついに上場し、個人投資家を中心に買いを集めている。
公募価格1,200円に対し、初値1,630円、最高値は1,780円という強さを見せた。
優待で乗り放題となる1万株まで買い増した個人投資家も多いという。
もっとも、株高の持続性には疑問もある。
多くの私鉄銘柄は不動産を中心に業績を伸ばしているが、東京地下鉄は不動産の保有額が小さく、業績拡大余地は乏しいとされる。
そのため、上場直後の話題性で株価が上昇しても、取引量の減少に伴って下落する恐れがある。
本記事では、東京地下鉄の上場後の株価について考察した上で、今後の株価見通しを紹介する。
目次
上場後の株価は割高か?
現在の株価指標
まず、上場後の現在株価から割り出した株価指標を確認しよう。
国内株全般との比較
上記の指標について、国内の主要指数と比較してみよう。
東京地下鉄 | 東証プライム平均 | |
---|---|---|
予想PER | 17.9倍 | 15.1倍 |
実績PBR | 1.40倍 | 1.27倍 |
配当利回り | 2.48% | 2.37% |
東京地下鉄の予想PERは17.9倍だが、東証プライム平均は15.1倍であり、2割ほど割高だ。
また、実績PBRについては1.4倍と、東証プライム平均の1.27倍より1割ほど高い。
配当利回りの2.48%については、東証プライム平均である2.37%とほぼ同水準だ。
総じて、国内株全般に対しては若干割高と考えられる。
同業他社との比較
では、同業他社との比較はどうだろうか。
株価指標は業種によって傾向が異なるため、同業他社と比べる方が割高/割安を判断する上で参考になる。
以下、主要な私鉄銘柄との比較表だ(各社2024年10月25日時点の数値)。
予想PER | 実績PBR | 配当利回り | |
---|---|---|---|
東京地下鉄 | 17.9倍 | 1.40倍 | 2.48% |
東武鉄道 | 11.2倍 | 0.90倍 | 2.08% |
東急 | 17.4倍 | 1.34倍 | 1.19% |
京成電鉄 | 13.6倍 | 1.34倍 | 0.94% |
近鉄GH | 15.1倍 | 1.23倍 | 1.43% |
予想PER・実績PBRともに、東京地下鉄が最も割高である。
一方、配当利回りは他4銘柄よりも高く、4銘柄の平均に対して2倍ほどの利回りだ。
業績の成長余地
株価指標は今期に対する数値であるため、来期以降の成長期待が高いほど割高になりやすい。
では、株価指標が最も割高な東京地下鉄は成長期待が高いのだろうか。
その点、東京地下鉄は収益の9割を鉄道事業に依存しており、成長余地に対しては冷ややかな見方が多い。
鉄道事業は運行本数や営業キロ数に限界があるため、業績拡大の余地は限定的です。
一般的に、私鉄銘柄の成長ドライバーは不動産だ。
しかし、東京地下鉄は不動産の残高は小さく、2024年3月末時点で753億円にとどまる。
株価指標の近い東急についていえば、不動産の期末残高は5,786億円あり、規模感が桁違いだ。
ただし、独自の成長余地として地下鉄の延伸計画がある。
南北線と有楽町線の延伸計画が東京都からすでに承認されており、実現後は業績拡大に寄与すると期待される。
とはいえ、延伸計画の開業予定は2035年あたりであり、現在株価の議論に加えるには時期尚早だ。
そのため、他社と比べた成長余地は限定的であると考えられている。
やや割高水準
成長余地が限られるにも関わらず、株価指標は他の同業銘柄よりも高い。
そのため、現在の東京地下鉄は割高であると判断できる。
成長余地が高ければ割高感も許容できるが、同業他社より成長力が低いというのが現在の評価であり、話題性が落ち着いたころには割高感が是正されそうだ。
具体的には、PER14~15倍となる株価1,300円付近が指標面における妥当水準だろう。
上場後の評価
私鉄首位の東急に時価総額接近
上場後の評価として、私鉄銘柄との時価総額の比較を見てみよう。
以下が上場初日、2024年10月23日終値での時価総額ランキングだ。
上場初日の東京地下鉄は時価総額1兆円まで株価を伸ばした。
その結果、業績水準が近い近鉄GHDや京成電鉄を引き離し、私鉄最大手の東急に接近している。
これが東京地下鉄に対する株式市場の評価と言える。
各アナリストのコメント
対して、市場関係者からの評価はどうだろうか。
日本経済新聞、四季報など主要メディアに掲載されたアナリストコメントをまとめた。
基本的に悪いことは書かれないので割引いて読む必要があるが、株価2,000円まで見込むという強気の声もある。
一方、弱気な声もちらほら出ており、全体的な評価は強弱相半ばといった具合だ。
「抜群の知名度で個人投資家のニーズが高い。収益を維持して配当を出し続ける安定株という側面が強い銘柄だ」
しんきんアセットマネジメント投信 藤原直樹シニアファンドマネージャー(東京メトロ上場、時価総額1兆円)
「現在の収益構造や今後の発展性が気になる。どうやって成長戦略を展開していくのか。東京メトロ株は当面、人気が続くだろうが、買い一巡後にどうなるかを注視する必要がある」
山本隆行氏(「東急と西武に次ぐ」時価総額、メトロの株価は実は割高?)
「成長期待は強くなく、利回り銘柄であることから株価は少し高いようにも見える」「今すぐに公開価格を下回ることはないだろうが、買い需要が一巡すると下がる可能性はある」
ニッセイ基礎研究所 井出真吾チーフ株式ストラテジスト(東京メトロ好発進、買い注文集め時価総額1兆円に-投資家拡大期待も)
「初値を付けても上昇しており好発進だ。業績にも安心感があり、個人投資家には人気の銘柄」(同記事内に、今後2000円程度までの上昇を見込む、との記載もあり)
いちよしアセットマネジメント 秋野充成社長(東京メトロ好発進、買い注文集め時価総額1兆円に-投資家拡大期待も)
「公募価格は割安過ぎ。1600円程度を中心とするレンジがリーズナブルと見ていた」「大幅な利益成長は期待できないが、ディフェンシブ性もある。株価はここからそれほどの上昇は期待できないが、今の水準であれば利回り銘柄として長期保有はできるのではないか」
ニッセイアセットマネジメント 伊藤琢チーフ株式ファンドマネージャー(東京メトロ好発進、買い注文集め時価総額1兆円に-投資家拡大期待も)
今後の業績見通し
来期までの業績予想
今後の株価を見通す前提として、来期までの業績予想を確認しておこう。
以下、四季報から来期までの業績予想を引用した。
年度 | 売上高 | 営業利益 | 純利益 | 1株益 |
---|---|---|---|---|
2024年3月期(実) | 3,892億円 | 763億円 | 462億円 | 79.6円 |
2025年3月期 | 4,075億円 | 880億円 | 523億円 | 90.0円 |
2026年3月期 | 4,250億円 | 920億円 | 552億円 | 95.0円 |
増収増益の見通し
今後の業績は、2年連続の増収増益が予想されている。
新柄コロナからの回復が続くことが増収増益の理由だ。
四季報の予想は外れることも多いが、首都圏の地下鉄は需要が盤石であるため、少なくとも業績が悪化する可能性は低いだろう。
したがって、緩やかな業績拡大が続くというのが今後のメインシナリオだと考えている。
大幅な業績拡大は期待できない
東京メトロは収益の9割が鉄道事業によるものだ。
鉄道事業は運行本数や車両定員などの物理的制約から、収益拡大に限界があるビジネスモデルだ。
また、首都圏の人口も横ばいで利用者増加も期待できない。
したがって、今後数年間で業績が大幅に拡大することはないだろう。
長期的な成長期待は?
長期的には業績拡大余地が大いにある。
期待されているのは次の3点だ。
①の延伸計画については既に東京都から承認されており実現が見えている。
ただ、延伸距離は合計7.4kmと、現在の総営業距離195kmに対してインパクトは小さい。
一方、②海外展開 と③不動産事業の拡大 については、実現の青写真は見えていないが成長余地が大きい。
今後、具体的な成長計画を示すことができれば投資家の期待を刺激することも可能だろう。
今後の株価見通し
過熱感の鎮静化で株価下落
上場直後は1,600円以上で推移しているが、若干過熱気味の印象である。
IPOの抽選から漏れた買いが膨らんでいるようだ。
ただ、株価指標面では割高感があるため、鎮静化に従って下落すると予想している。
1,400円まで下落を予想
過熱感の鎮静後は1,400円台のレンジ相場になりそうだ。
株価指標面では1,300~1,400円が妥当と上で書いたが、優待銘柄は指標が上振れる傾向があるため、やや強気に1,400円台になると予想した。
公募価格の1,200円まで下がると割安であるし、価格帯別出来高のボリュームゾーンまで下がると売りが減る。
そのため、1,200円台まで下がれば反発しそうだ。
総じて、1,400円台を中心としたレンジ相場になると予想している。
長期的には緩やかに上昇
短期的には業績拡大余地が乏しいため、株価も横ばいになるとの見方が大勢だ。
一方、業績は底堅く、緩やかながら成長期待はある。
したがって、長期的には緩やかに株価が上昇していくと考えるのが妥当だろう。
成長期待の度合いによっては株価2,000円台もあり得る。
特に、海外事業における具体的な成長ストーリーが示されることを期待したいところだ。
まとめ
東京地下鉄の上場後の株価について、割高・割安の評価と、今後の見通しについて考察した。
上場後の株価は好調ではあるが、若干の割高感は否めない。
結局、過熱感が一服すれば他社との比較になってくるため、妥当な水準まで下落すると予想した。
中期的な業績拡大余地が乏しいことから、一服後は横ばいの株価推移になるだろう。
一方、長期的には業績拡大余地があり、株価上昇を見込む。
利回り3%くらい取りながら長期の株価上昇を捉えたい銘柄だと考えている。