三菱商事の株価が決算発表をきっかけに下落しています。
2021年5月7日に2021年3月期の決算発表が行われましたが、期待されていた業績には届かなかったことが原因です。
決算発表は13:45の取引時間中に行われ、公表された直後には150円も急落する事態に。チャートには大陰線が刻まれました。
とはいえ、今回の急落はもともとの期待値が高かったためです。今後の株価見通しについては決算発表の内容を確認する必要があります。
本記事では、2021年3月期の決算内容を確認した上で、今後の株価見通しについて考察していきます。
目次
決算発表で株価が下落
三菱商事は規模では日本No.1の総合商社であり、その決算は多くの市場参加者から注目されていました。
しかし、発表された業績は期待を裏切るものでした。
最も重要な純利益は1,726億円と、市場予想からは500億円以上も低い着地となり、株価は急落。3,150円付近から、一時は3,000円を割るところまで売り込まれてしまいました。
資源価格が上昇していることや、直前に決算を発表していた三井物産や丸紅は好調な決算内容(以下参考記事)だっただけに、市場予想に届かない決算内容は失望を誘いました。
また、同時に発表された2022年3月期の業績予想も失望の原因です。
市場予想では4,626億円の当期利益であるのに対し、三菱商事が発表した見通しは当期利益3,800億円。新型コロナの影響を見越して保守的な見通しにしていることを考慮しても、市場予想と20%近い開きは失望感を加速させました。
とはいえ、期待や失望での値動きは短期的なものです。長期の株価予想をするには業績を冷静に判断する必要がありますので、次に決算内容を詳しく見ていきましょう。
2021年3月期決算の詳細
決算の概要
まずは決算内容について、主要な数値をまとめました。
- 売上高 :12兆8,845億円(前年度比−12.8%)
- 経常利益:2,535億円(前年度比−60.9%)
- 当期利益:1,726億円(前年度比−77.7%)
- 1株利益:116.86円(前年度比−66.5%)
- 1株配当:134円(前年と同じ)
いずれの数値も前年より大きく落ち込み、特に重要視される当期利益は−77.7%もの落ち込みとなりました。
1株配当が維持されたのが唯一の救いです。
事業別の純利益
三菱商事は多数の事業を抱えていて、そのセグメント数は13にも及びます。
そのうち、前年以上の純利益となったのは石油・化学事業と金属資源事業のみ。それ以外の事業では全て前年割れの純利益となってしまいました。
こちらが、セグメント別の当期純利益です。
ローソンの減損損失836億円が痛手
当期利益が予想以上に落ち込んだ要因は、子会社であるコンビニ大手「ローソン」の減損損失です。
三菱商事がローソンを買収した際、およそ1,500億円の のれんを計上しましたが、新型コロナによって収益力が低下したため、今回の決算で836億円を損失として計上したのです。
この減損がなければ、当期利益は2,500億円以上となり、市場予想を大きく上回ったはずでした。三菱商事に投資している投資家にとって大きな痛手です。
ただし、減損損失は現金流出を伴わない、会計上の損失です。悪材料としては短期的なものですので、株価への影響は限定的と見ています。
決算の3つのポイント
ポイント① 事前予想を下回る利益
決算で最も注目されるのは、市場予想(QUICKコンセンサス)との差分です。
市場予想は事前に株価に織り込まれるため、上回れば株価上昇、下回れば株価下落というのがセオリーです。三菱商事の場合、市場予想よりも大きく下回る決算内容で、これによって株価急落に見舞われました。
こちらが決算内容(実績)と市場予想(QUICKコンセンサス)との比較です。
項目 | 実績 | QUICKコンセンサス |
---|---|---|
売上高 | 12兆8,845億円 | 11兆7,953億円 |
経常利益 | 2,535億円 | 3,424億円 |
当期利益 | 1,726億円 | 2,271億円 |
1株利益 | 116.86円 | 153.86円 |
1株配当 | 134円 | 134円 |
最も重要視される当期利益は、市場予想2,271億円に対して、実績1,726億円。
予想よりも−20%近い結果となり、市場の期待が裏切られた格好です。
1株利益については市場予想が153.86円だったのに対し、実績は116.86円でした。1株配当は134円で維持されたものの、配当を賄うだけの利益を出せていません。
配当が維持されたことは不幸中の幸いですが、市場予想を下回ったことで失望売りは避けられず、株価急落を招く主因となりました。
ポイント② キャッシュフローは良好で配当維持
表面上の数字については良くありませんでしたが、現金の動きを表すキャッシュフローは悪くありません。
こちらが今回の決算を含む、過去5年間のキャッシュフローです。自由に使える現金であるフリーキャッシュフローは前年度よりも増加しており、三菱商事の「現金を稼ぐ力」が衰えていない証拠です。
キャッシュフローが良好であるのに利益が予想以下となった理由は、ローソンの減損損失です。
減損損失は帳簿上の損失で、現金出費は伴いません。そのため、キャッシュフローが良好でも業績が芳しくないという結果になったのです。
決算発表直後こそは市場予想を下回った失望感が先行していますが、減損などの一過性損益が一巡すれば、良好なキャッシュフローに着目した買いが増加することを期待しています。
ポイント③ 業績予想はコンセンサス以下
決算発表では今年度(2022年3月期)の業績見通しも注目されました。
業績見通しも市場コンセンサスが存在し、会社予想との比較で株価に影響を与えます。
今回の場合、三菱商事の業績見通しは市場コンセンサス未満となり、失望売りを誘いました。
項目 | 会社予想 | QUICKコンセンサス |
---|---|---|
当期利益 | 3,800億円 | 4,485億円 |
1株利益 | 257.43円 | 303.84円 |
会社予想とQUICKコンセンサスの差分は15%ほどです。
この程度であれば、今後の上方修正で埋められる可能性は十分あります。失望売りが一巡すれば、今後は上昇余地として期待できそうです。
参考:<東証>三菱商が後場急落 今期最終益3800億円、市場予想に届かず
今後の株価見通しは?予想株価は「3,300円」
以上の業績を踏まえて、2022年3月期の業績予想から株価を予想してみたいと思います。
再掲となりますが、こちらが2022年3月期の業績予想(会社予想)です。
- 純利益 :3,800億円
- 1株利益:257.43円
- 1株配当:134円
PBRベースでの予想、PERベースでの予想の2つの観点で予想していきます。
PBRベースの予想で「株価4,134円」
まず、1株あたりの純資産と、理論PBR(株価純資産倍率)を掛けることで予想株価を計算します。
1株あたりの純資産(BPS)は3,900円を予想しました。これは、2021年3月時点のBPS 3,800円に、1株利益(257.43円)を足し、さらに1株配当(134円)を引いて、大まかに求めたものです。
理論PBRは1.06倍となりました。ロイターが公開している指標や、現在の長期金利などから計算しています。
- 株主資本コスト=1.6%+5.5%×0.92(β値)=6.66%
- 予想ROE=7.05%
- 理論BPR=7.05%(ROE)÷6.66%(株主資本コスト)=1.06倍
- 予想BPS=3,900円
以上から、PBRベースでの予想株価は次のように計算されます。
予想株価=3,900円(予想BPS)×1.06倍(理論PBR)=4,134円
決算発表後は3,000円付近で推移していて、4,134円という予想はかなり強気です。
焦点はPBR 1.06倍が妥当かどうかですが、過去のPBR推移では最大1.06倍ですので、十分あり得る数字です。
金融緩和により金融機関は”金余り”が常態化しており、利回りを求めて三菱商事に投資資金が流入することが期待できます。
ただし、3,000円台から4,000円台まで上昇するには好材料に恵まれる必要があり、4,134円というのは”予想の最大値”という位置づけにしたいと思います。
PERベースの予想で「株価2,780~3,281円」
PERベースでの予想は、予想PERのさじ加減というところがありますが、実験的にやってみたいと思います。
まず、過去5年間のPER平均値 10.8倍を適用すると、予想株価は2,780円となります。
予想株価=257.43円(EPS)×10.8倍=2,780円
短期的には、ここまで下落する可能性はありそうです。
一方で、この予想には今後の上方修正期待が織り込まれていません。QUICKコンセンサス予想まで上方修正されるという期待のもと、予想株価を計算してみます。
予想株価=303.84円(EPS)×10.8倍=3,281円
以上から、PERベースでの株価予想は2,780~3,281円としました。
そもそも、採用したPER 10.8倍が適切かどうか議論の余地があり、予想する人によって変わってくるでしょう。
ちなみにですが、過去のPER推移を掲載しておきます。2017年~2020年は10倍未満で推移していましたが、2020年後半以降は最大24.2倍まで上昇しました。
投資スタンスは「予想株価3,300円」
ここまでの株価予想を総合して、当ブログの投資スタンスとしては予想株価3,300円としました。
理論PBRから計算した予想株価が4,000円を超えたことから、現時点での株価(3,000円前後)は割安だと考えられます。
また、世界的な金融緩和の中、配当利回りが4%を超える三菱商事には投資資金が集まると期待し、株価上昇予想です。ちなみに、株価3,300円となっても配当利回りは4.1%です。
一方、2021年3月期の実績、2022年3月期の見通しが市場予想を下回ったのはマイナス材料です。同業他社である三井物産や丸紅、伊藤忠商事の方が優れたパフォーマンスを期待でき、そちらに投資資金が流れ、三菱商事の株価は上がりにくいと予想されます。
以上から、株価上昇を期待するものの、それほど強気の予想はできないと考え、3,300円が妥当だと判断しました。
まとめ
三菱商事の決算内容についてまとめた上で、業績見通しの数値から株価予想を行いました。
総合商社の銘柄は総じて好調ですが、三菱商事は唯一、市場の期待を裏切ってしまいました。期待されていただけに反動も大きく、ここから持ち直すには時間がかかるかもしれません。
とはいえ、据え置きとなった配当が株価の支えとなりそうです。配当利回り4%超えは魅力的ですので、株価下落のリスクは限定的と見ます。
過去10年以上、総合商社の株は割安で放置されてきましたが、”投資の神様”と呼ばれるウォーレン・バフェットが総合商社に投資するなど、最近は見直されつつあります。
三菱商事は各種指標でまだまだ割安水準ですので、これからの上昇に期待しています。