2020年1月15日、2年半続いた「VALU」の売買サービス終了が発表されました。
個人を株式化して売買するプラットフォームとして話題になったVALU。
リリース当初、「個人の価値を可視化できる破壊的サービス」として期待を集め、堀江貴文氏や家入一真氏など有力投資家の出資を受けることに成功。さらに多くのフォロワーを持つ”インフルエンサー”の心を掴んだことでVALUのユーザーは急拡大します。
また、当時は仮想通貨ブームで最盛期であったこともVALUの人気に拍車をかけ、VALUは「トークンエコノミー(個人の株式化)」と「仮想通貨」というテーマを融合したスーパーアプリとして持て囃されたのです。
しかし、YouTuberによる”インサイダー取引”騒動で歯車が狂いはじめました。
VALUに悪評が立ったことで信用を重視するインフルエンサーは去り、さらに”コインチェック事件”により仮想通貨ブームが終焉したことでユーザー数は激減。
資金調達を行なって新規機能を付与するも振るわず、最終的には仮想通貨に関する法規制がトドメとなり、メインであるVA売買が廃止となりました。
今回は、VALUの売買サービス終了に至った原因と経緯について考察した上で、VALUと同じく個人を対象としたトークンエコノミー事業を行うタイムバンクについても考察を深めたいと思います。
目次
VALU終了までの経緯
まずはVALUのサービス開始から終了に至るまでを簡単に振り返ってみましょう。
VALUの盛り上がりはリリースから3~4ヶ月がピークで、それ以降、サービス終了まで落ち込む一方だった模様です。
2016年11月1日 株式会社VALU設立
VALUを開発した「株式会社VALU」は2016年末に設立されました。
堀江貴文、家入一真なども出資したことから、リリース前の構想段階で注目を集めていました。
出資者の一人である堀江貴文は、当時、「ホリエモンカード」という独自カードを発行しており、そこにVALUのヒントを得たとVALU代表は語っています。
2017年5月31日 VALU β版リリース
創業から半年後である2017年5月末、ついにVALUのβ版をリリースしました。
β版リリース当初はWEB版しか提供されておらず、少しずつユーザーを拡大しながら、実験的に開発を進めていく思惑だったそうです。
しかし、インフルエンサーを中心に想定以上に反響があり、リリースからわずか2ヶ月ほどで1万2千人ものユーザーがVALUを発行するに至りました。
しかし、未成熟なサービス故に”あの騒動”が起こってしまいます。
2017年8月15日 YouTuberによる大量売却騒動
VALUの盛り上がりが最高潮に達していた8月。
有名YouTuberである”ヒカル”が、自身のVALUを買い煽った上で高値で売り抜けたことが「インサイダー取引だ」として大問題に発展しました。
この問題はYouTuberらのモラルだけでなく、VALUの仕組み自体も問題視され、金融庁もこの騒動に言及したほどの反響がありました。
全国放送や数々のメディアでも取り上げられ、悪い意味でVALUの名前が知れ渡ることになります。
2017年12月5日 数千万円の資金調達を実施
創業からおよそ1年で、有力個人投資家の千葉功太郎を引受先とする資金調達を実施。
調達額は明らかにされておらず、”数千万円”とのことです。
リリースからわずか半年でユーザー数8万人に達しており、以降の発展を見込んでの出資だと思われます。
プレスリリースはこちら。
2018年7月24日 4500万円の資金調達を実施
2017年末の資金調達から続き、さらに4500万円の資金調達を実施しました(プレスリリース)。
VALU代表が「あの騒動が起こってからしばらくは、水面下に潜っていたんです。」と語っているように、YouTuber騒動以来、VALUは積極的なPRを行ってきませんでした。
その間、安心して取引できるプラットフォームにすべく、取引制限や売買抑制機能を整備すると同時に、ユーザー拡大のためにiOSとAndroidアプリの開発を進めており、資金調達はそのための開発費用だと考えられます。
しかし、投機的側面が薄れたことでアプリの”楽しさ”が減ってしまい、のちのインタビューで
「超減りましたよ(笑)。ピーク時と比べ、UUは月間半分ぐらいになりました。」
と代表が語っている通り、ユーザー数は大きく減少した模様です。
2018年8月8日 iOS版をリリース
最初のアプリ版VALUとしてiOS版がリリースされました。
当時、仮想通貨の大幅下落の煽りなどから取引量が下落傾向にあり、アプリ版リリースが再度の起爆剤になるのではという期待がありましたが、残念ながら人気のテコ入れとはならなかった模様です。
その後、VA保有に応じた閲覧可否設定やコミュニティ機能拡充を実施したものの、反響は得られませんでした。
2019年1月21日 5億円の資金調達を実施
ダウンロード数とは裏腹に、休眠ユーザーが多くを占める状況に陥っていたVALUでしたが、2019年1月に過去最大となる5億円の資金調達を実施しました。
5億円のうち、4億〜4億5千万円をVALUの事業拡大に、そして残りの資金を新規事業開発に充てる計画でした。
また、同時にAndroid版をリリースしています。
2019年5月31日 暗号資産関連の法改正
この日、VALUの売買サービス終了の元凶となる「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和元年法律第28号)が成立しました。
これについては後に詳しく解説します。
2019年6月11日「Findish」リリース
資金調達時に宣言した通り、およそ5ヶ月後に新サービス「Findish」をリリースしました。
「Findish」は新規飲食店が資金調達を行うためのプラットフォームであり、会員権を特典としたくラウンドファンディング機能に、会員権をユーザー間で売買できる二次流通機能を付与したサービスです。
2019年夏に開始されたFindishですが、2020年1月現在の取り扱いは3事業者のみ。少々苦しい出足となっている模様です。
2020年1月15日 VALUのVA売買サービス終了を告知
2020年に入り、先を危ぶまれていたVALUがついにVAの売買終了を告知しました。
直接の原因としては『暗号資産カストディ業務に対する規制』があります。この辺りを掘り下げて解説していきます。
VALUサービス終了の直接原因『暗号資産カストディ業務に対する規制』
『暗号資産カストディ業務に対する規制』とは
5月31日に成立し、6月7日に公布された「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和元年法律第28号)がVALU運営に衝撃を与えました。
この改正法案に含まれる『暗号資産カストディ業務に対する規制』により、ユーザーから預かったビットコインの管理方法を大きく改める必要が生じたのです。
- ・「他人のために暗号資産の管理をすること(=カストディ業務)」が仮想通貨交換業の定義に追加された
- ・該当する事業者は仮想通貨交換業者に登録する必要がある
- ・さらに、本人確認義務や分別管理義務が課される
超えられなかった6つのハードル
VALUの”VA”の取引にはビットコインが利用されますが、そのためのビットコインを株式会社VALUがユーザーから預かる仕組みになっており、これが「暗号通貨カストディ業務」にあたります。
これにより、株式会社VALUは仮想通貨交換業者として登録する必要が生じました。
しかし、そのためには次の6つのハードルがあります。
- ・株式会社または外国仮想通貨交換業者であること
- ・資本金額が1000万円以上、かつ債務超過でない
- ・利用者保護の体制が整備されている
- ・顧客資産の分別管理がなされている
- ・システムリスク管理がなされている
- ・法令遵守の体制が取られている
これらのハードルを越えるためには、サイバーセキュリティやサーバーへの投資、疑わしい入出金や取引を監視する人員配置など、多額の費用と労力が必要となります。
ベンチャーを含む中小企業には厳しい内容であり、実際、これまで交換業者への登録申請を行なった業者は120社以上ありますが、現時点で認可されているのは22社のみ。金融サービスとして有名なマネーフォワードもこれらのハードルを前に断念したほどです。
スタートアップである株式会社VALUには割りに合わない投資になる可能性が高く、断念せざるを得なかったのでしょう。
そもそもVALUの人気が低迷していた
直接の要因としては上記の規制対応が困難だったと説明されていますが、そもそもVALUのアクティブユーザーが低迷していたことが終了の背景にあるように思います。
YouTuber騒動以降、VALUのアクティブユーザー数は半減した上、VA購入の対価となる”優待”を取りやめるVA発行者が相次ぎ、購入しても何の対価も得られないという状況に陥りました。
それにより既存ユーザーが離れる一方、VALUを始めるためにはビットコインの購入・入金・取引というハードルがあり、新規ユーザー獲得に苦しんでいた模様です。
事業としての存続自体が危ぶまれていた状況だったため、法律による規制強化は取引サービスを終了するきっかけに過ぎなかったと考えられます。
消滅するVA相当の返金・補償はされない
売買サービスが終了するも、VALU運営からVA相当の返金や補償は一切されません。
運営の言い分としては次の2点でしょう。
- ・VAは単なる”応援グッズ”であり、有価証券ではない
- ・VAはパブリックチェーンに移して引き続き保有できる
返金や補償が一切ないことに対し、ユーザーの間では不満と怒りが噴出しています。
しかし、VAは発行者が販売したものですので、返金するべきは運営ではなく発行者だと考えるのが妥当です。
一部の賢明な発行者はSNS上で買い戻しを宣言しており、VALUサービスが終了することで真に信用できる人間だったか判明するという、皮肉な事態になっています。
VALUの売買が終了する、僕のVALUを持っていてもゴミになるだけなので、できる限り放出したのと近い価格で買い戻していますので、僕のVALU持っている人は売ってくださいー!(1日の売買の金額の幅が決まっちゃっているので、どこまで価格の期待にそえるかわかりませんが、、https://t.co/aTZA8vIjdn
— けんすう@マンガサービスのアル (@kensuu) January 16, 2020
タイムバンクとVALUの明暗
同じく「個人のトークンエコノミー」としてスタートしたVALUとタイムバンク。
VALUはタイムバンクより3ヶ月早いサービス開始でしたが、タイムバンクはユーザー数150万人を突破する勢いを見せる一方、VALUはサービスの存続が危ぶまれています。
両者の明暗を分けたものはなんでしょうか。
ピボット判断のスピード
タイムバンクの佐藤航陽は学生時代からビジネスの世界に身を投じ、複数の事業を立ち上げた経験のある経営者です。
それらの経験から、事業を深追いするか、ピボットするかの判断に優れており、タイムバンクの「個人のトークンエコノミー」としてのサービスを早い段階で見切りをつけ、素早く方針転換を果たしました。
それにより、時間トレード(トークンエコノミー)機能を裏に温存しつつ、ユーザー基盤を拡大することに成功しています。
一方のVALUは、サービス開始当初の成功体験と、取引ベースがビットコインという縛りから、VALUサービスを伸ばすことに注力しました。トークンエコノミー事業はユーザーへの認知度やモラルが追いついていないのが実情で、結果論でありますが、注力したことは失敗だったと言えそうです。
事業の不確実性
VALUは”個人のトークンエコノミー”に加え、”仮想通貨(ビットコイン)”という要素を導入してサービスをスタートしました。
サービスイン当初は、多くのインフルエンサーをVALUに呼び込みつつ、仮想通貨への期待も高まってく状況で、VALUは時代を先取ったスーパーアプリとして注目されたのです。
しかし、YouTuber騒動以降、インフルエンサーは潮が引くように消え、トークンエコノミーサービスとしての信頼が揺らぎました。
さらに、サービス開始からおよそ半年後には仮想通貨の信頼も揺らぐ事態となり(コインチェック事件)、VALUの二つの要素両方が信頼を失ってしまいました。
振り返ってみると、VALUの二つの要素は不確実性が高く、盛り上がっている時期は良かったものの、その反動も大きいという特徴があります。
最終的にトドメを刺した『暗号資産カストディ業務に対する規制』も仮想通貨を扱う不確実性が顕現した結果です。
アプリ内通貨を「円」に固定していたタイムバンクは仮想通貨下落の煽りを受けることはなくサービスを継続しており、事業の不確実性をどこまで取り入れるかが明暗を分けたと言えそうです(タイムバンクのトークンエコノミーもうまくいっていませんが)。
資金力
タイムバンクはサービス開始から2年間以上、第三者からの出資を受けることなく運営していました。
これが迅速で思い切った経営判断を可能としています。
一方のVALUは基本的に第三者からの出資金で運営されており、経営者と実質的な議決権が必ずしも一致しているわけではありません。
もちろん、妥協した経営をしていたとは考えられませんが、1人で決断・投資ができるよりは動きが鈍くなるものです。
タイムバンクのサービスも危うい?
タイムバンクの時間トレードサービスは日本円で運営されているため、仮想通貨絡みの規制とは無関係です。
今後もサービスは継続される見通しではありますが、一方で個人を対象としたトークン売買はごく一部のユーザー(または発行者)がトラブルを起こしただけでも注目されてしまう性質があり、今後規制の対象になる可能性があります。
また、タイムバンクの売買自体も低調で、経営判断で売買サービスが終了することは十分考えられるでしょう。
VALUの売買サービス終了とは決して無関係ではいられず、タイムバンクの売買サービスも今後は危うくなってくるかもしれません。
まとめ:VALUの今後
VAの売買サービスは3月2日に終了する予定ですが、VALUのサービス自体は今後も継続します。
4月1日からはサービス内容を抜本的に転換し再スタートを切ると発表されており、VALU復活の可能性も潰えてはいません。
また、同社代表はVALUの支払い手段をビットコインから日本円に切り替えることを検討中だと語ったことがあり(参考記事)、日本円でのVALUとして復活する可能性も考えられます。
「世界中の信用を評価し、資本主義をアップデートし続ける」をミッションとして掲げるVALUの新サービスに注目です。