伊藤忠商事は以前まで”高配当銘柄”として扱われてきた優秀な銘柄です。
最近は人気故の株価上昇で利回りが低下していきましたが、長期投資家にとってはタイミングを見計らって狙って手に入れたい銘柄の一つであることには変わりありません。
伊藤忠商事の現在の配当利回りは3.0%未満。”高配当銘柄”とは言えない水準ですが、将来的な増配・自社株買いを考慮に入れると、決して割高な株価ではありません。
例年行われてきている自社株買いが継続されれば、実質的な利回りは3.0%を超えるため、「隠れ高配当銘柄」と言うことができるでしょう。
本記事では、伊藤忠商事の「配当」にフォーカスし、実質的な利回り、今後の配当予想、そして株価推移から考える買い時を考察していきます。
目次
好業績・高配当銘柄として注目の伊藤忠商事
日本の総合商社No.1企業
伊藤忠商事は好調な業績で注目を集めている大手総合商社の一角です。
2020年には時価総額で三菱商事を抜き、総合商社No.1の座を獲得しました。2021年には純利益でも三菱商事を抜く勢いであり、名実ともに日本トップの総合商社であることは間違いありません。
参考記事:日本経済新聞「伊藤忠、時価総額で商社初トップ 三菱商事を逆転」
株価好調で利回りも高い
伊藤忠商事は1年間で純利益4,000億円(2020年度)を稼ぎ出し、高い株主還元を実施しています。
1株あたりの配当は88円、配当利回りは2.64%です(2021年3月5日時点)。一般的に3.0%未満は”高配当”とは言われませんが、伊藤忠商事は自社株買いによる株主還元を積極的に行なっており、それを合わせると3.0%を超える水準となります。
好調な業績で株価は上昇トレンドであり、しかも利回りが高いという稀有な銘柄であると言えるでしょう。
外部評価は良好。格付け「A」以上、レーティングも上昇傾向
伊藤忠商事に対する外部評価はどうでしょうか。
まず、企業としての信用度を図る長期格付です。2010年以降、企業価値の基礎である株主資本を順調に積み上げた結果、格付会社の各社からの格上げを獲得し、全て”A”以上の格付けとなっています。
これは財務的に安定していることを示し、投資する上での安心材料です。
証券アナリストからの評価も高く、レーティング最新値は「4.56」となっています。1~5の五段階評価で、5に近いほど高評価です。4.56は非常に優秀な数値だと言えます。
目標株価コンセンサスは3,422円と、現在値(3,329円)より若干高いです。強気予想が多いため、今後目標株価が引き上げられる期待はありますが、現時点では上昇余地はそれほど残されていない印象です。
配当利回りは「2.64%」、総還元ベースでは「3.2%以上」
配当額は1株あたり88円(2020年度)
2020年度の配当は1株あたり88円の予定です。中間配当(2020年9月末)で44円、期末配当(2021年3月末)で44円となっています。
配当額は2014年以降、年々引き上げられていて、6年間で2倍程度になりました。純利益が順調に拡大していることと、配当性向(純利益に対する配当の割合)を高める方針を取っていることが要因です。
伊藤忠は自社株買いも積極的に行っており、発行済株式数が減少したことで1株あたりの配当が増えているという要因もあります。
配当利回りは2.64%
配当利回りは現在株価(3,329円)基準で2.64%です。
配当利回り=88円(1株あたり配当)÷3,329円(現在株価)=2.64%
新型コロナで株価が下落した際には4%ほどありましたが、意外に業績好調であることが明らかになり、株価が上がり続けています。
特に、2020年は原油を筆頭に資源価格が乱高下したことで、資源比率が高い総合商社は大きなダメージを受けました。その点、伊藤忠商事は”非資源”に注力していることからダメージが少なく、安定した業績を実現しています。
自社株買いが実施される可能性
伊藤忠商事の株主還元は配当だけでなく、自社株買いも積極的に行っています。
特に、過去3年間は絶え間なく自社株買いが行われています。現在行われているのは、期間2020年6月12日~2021年6月11日、上限700億円の自社株買いです。
自社株買いの効果
1株あたりの価値は【企業の価値÷発行済株式数】ですが、自社株買いが実施されること発行済株式数が減り、1株あたりの価値が押し上げられます。結果的に株価が上昇することになり、株主還元という意味では配当と同様の効果があります。
2021年6月11日以降も新たな自社株買いが発表される可能性は高く、実現すれば実質的な利回りを押し上げることになるでしょう。
総還元ベースの利回りは3.2%以上
配当に自社株買いを加算した総還元ベースでの利回りは3.2%を超えると予想します。
過去3年間、毎年300億円以上の自社株買いを実施した実績から、今年も300億円以上の自社株買いが設定されるでしょう。
仮に、下限の300億円としても、1株あたり18.9円の還元額に匹敵します。配当と合算した総還元は1株あたり106.9円となり、利回りは3.2%となります。
自社株買い規模が300億円より上振れれば、利回りはより高くなります。反面、新型コロナによる不透明感を根拠に自社株買いを見送る可能性もあり、伊藤忠がどう判断するかは予想しづらいところです。
伊藤忠は総還元性向30%を目標にしていますが、2021年3月期については配当だけで30%に達する見込みです。自社株買いが行われることを前提にするのは危険かもしれず、難しいところです。
今後の配当予想は?業績好調で増配期待
日本企業全体で8位の収益力
伊藤忠商事は大手総合商社の中でも随一の純利益を誇ります。その額は日本企業ランキング8位となっているほどで、メガバンクトップである三菱UFJに匹敵する規模です。
配当の原資は純利益ですので、高い純利益を安定的に稼ぐ企業は魅力的な投資先と言えます。
こちらが2020年度の国内純利益ランキングです。
配当性向は30%まで引上げ予定
配当性向は20〜25%が通常でしたが、2018年から方針が変わり、30%まで引き上げられることになりました。
一気に引き上げるわけではなく、数年にわたって徐々に引き上げていく計画です。
ただし、2021年3月期は純利益が4,000億円になるという予想のため、配当性向は32.8%まで上昇します。方針として定めた30%を一気に超えてしまいますが、新型コロナの影響という一時的な要因であるため、30%超えは許容するようです。
好調な業績で増配期待
2021年3月期は新型コロナで利益が減ってしまいましたが、2019年3月期、2020年3月期は5,000億円以上の純利益を稼ぎ出しました。
この純利益が維持され、配当性向30%まで上昇すると配当はいくらになるでしょうか?
5,000億円×30%=1,500億円(配当原資)
→1,500億円÷15億8,489万株(発行済株式数)=94.6円
純利益5,000億円、配当性向30%で1,500億円が配当原資となります。発行済株式数は15億8,489万株ですので、1株あたりの配当額は94.6円となります。
現在の配当(88円)からさらに増配となりそうです。
また、大手証券会社は将来の純利益が6,000億円まで拡大すると予想しています。その場合、配当額は114円にもなり、株価も相応に上昇することが期待されます。
長期投資での買い時は?
上昇基調で難しい買い時
伊藤忠商事の株価はコロナショックで急落して以降、上昇基調が1年間継続しています。
買われた要因としては、新型コロナ下においても強い業績であること、非資源分野に強いこと、”投資の神様”ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイが大量保有報告書を提出したこと、などです。
上昇トレンドでは買いの判断が難しいもの。どうしても高値に見えてしまい、「買った途端に下がるのでは?」と手控えてしまいがちです。
3,000円台前半なら理論値の範囲内
確かに、直近では上昇し続けているものの、3,000~3,500円の範囲なら適正水準であることは計算から分かります。
伊藤忠商事はいわゆる”コングロマリットディスカウント”によって割安で放置されてきたという経緯があり、直近の株価上昇によって企業価値が適正化されたと考えるのが妥当でしょう。
各種株価指標から計算した理論株価は3,407円です。したがって、3,000円台前半であれば適正株価であると考えています。
- 理論株価=16.9%(ROE)÷10.0%(株主資本コスト)×2016.1(BPS)=3,407円
※指標は2020年3月期本決算の数値を採用
移動平均線あたりが買い時と予想
過去2年間のチャートをからテクニカル的に考えると、移動平均線あたりが狙い目のように見えます。買い時を狙う王道的考え方ですが、伊藤忠商事はこれに従った素直な値動きです。
具体的には、上昇トレンドとなった2020年4月以降、25日移動平均線(下図の黄色線)に差し掛かると反発上昇する傾向が見て取れます。また、75日移動平均線(オレンジ線)を割った2020年3〜4月では、すぐに75日移動平均線より上まで株価が戻っています。
したがって、25日移動平均線・75日移動平均線に差し掛かったタイミングが買い時の判断材料となりそうです。
とはいえ、好決算や好材料が発表されればテクニカルなど無視で急騰する可能性があり、その逆もまた然りです。
どうしても伊藤忠商事が気になるなら、100株だけ、あるいは1株単位で購入していき、時間分散によりリスクを減らす方法も有力です。
株価は市場参加者の総意で決まっているため、言ってしまえばいつでも適正価格。買いだと思った時に買うのも間違ったことではないと考えています。
1株単位で買える証券会社は年々増えてきていて、私はLINE証券を利用しています。気になった銘柄はとりあえずポジションを持つことから始めているので、少額で打診買いする時などに重宝しますよ。
伊藤忠商事の配当振込スケジュール
伊藤忠商事を買った後の話になりますが、過去の配当実績から、配当振込スケジュール詳細をご紹介します。
権利確定日は3月末・9月末
伊藤忠商事は一般的な3月決算の企業です。
したがって、配当の権利確定日は3月末営業日と9月末営業日と決まっています。土日に当たる場合はその手前の平日です。
2021年の権利確定日は次の予定になっています。
- 2021年3月31日:2020年度の期末配当
- 2021年9月30日:2021年度の中間配当
ただし、株を保有しておくべき日(=権利付最終売買日)は権利確定日の2営業日前です。
例えば、2020年度の期末配当を取りに行く場合、2021年3月29日15:00までに株を買っておく必要があります。
配当振込日は?実績ベースで紹介
権利確定日は決算月ごとに決まっていますが、配当振込日は各企業で異なります。
伊藤忠商事の場合、2020年では6月22日に期末配当が、12月2日に中間配当が振り込まれました。
3月権利確定分は6月末に、9月権利確定分は12月頭に振り込まれるようです。
振込額は、源泉徴収有りの場合は【配当額×0.79685円】が、NISA口座など源泉徴収無しの口座なら配当額そのままとなります。
まとめ
伊藤忠商事の配当にフォーカスして、現在の利回り水準や、今後の配当予想について考察しました。
最近は株価上昇で配当利回りが減少してきているものの、それは業績好調の証でもあります。今後の増配や自社株買いまで考慮すると、3,000円以上の株価は決して割高というわけではなく、むしろ適正水準であると言えるでしょう。
とはいえ、不用意に購入して株価が下落してもつまらないので、株価調整を待ちたいところ。買い時を見計らって拾い、今後の好業績の恩恵を受けたいですね。
私は伊藤忠商事に100株を投資しており、現在は買増しのタイミングを見計らっています。本記事では買増しという判断に至った理由や狙ってる買い時について紹介していきます。