治験中断で急落した武田薬品、 今後の株価はどうなる?最悪を想定した予想株価を算出




武田薬品の株価が、治験中断を機に急落しています。

治験が中断された医薬品は「TAK-994」と呼ばれ、睡眠障害の治療薬として開発されました。単体でも4,000億円の売上が見込まれ、さらに同成分のTAK-925と合わせれば最大で6,300億円もの売上が見込まれている期待の新薬です。

TAK-994は2024年以降に訪れる”特許の崖”を補う新薬として株価の支えになってきました。それだけに、治験中断は大きな痛手です。

中断の原因は安全性に懸念が生じたためと発表されています。もし開発中止となれば、2024年以降の業績落ち込みは相当なものになると予想され、その懸念によって株価がさらに急落する恐れがあります。

本記事では、治験が中断された新薬「TAK-994」について解説し、治験中断による影響を考察しました。

さらに、開発が頓挫した場合の2030年予想株価を算出し、武田薬品の買い時を占いたいと思います。

治験が中断された新薬「TAK-994」とは?

管理人

まず、今回の話題の中心である「TAK-994」とは何かについて解説していきます。

睡眠障害「ナルコレプシー」の治療薬

TAK-994とは、睡眠障害「ナルコレプシー」の治療薬として開発された新薬です。

ナルコレプシーは”居眠り病”とも呼ばれます。日中でも耐え難い眠気に襲われ、状況によっては突然居眠りをしてしまう病です。

決して珍しい病気ではなく、日本人の場合はおよそ600人に1人の割合で罹患者が存在します。人種によって罹患率に差があり、欧米では4,000人に1人程度の割合です。

ナルコレプシー患者は全世界に約300万人存在しますが、未だ根本的な治療薬が存在しません。製薬企業としては魅力的な市場だと言えるでしょう。

ナルコレプシーに関する正確な情報源

既存治療薬より優れた効果が期待

これまでの治験結果から、TAK-994は既存のナルコレプシー治療薬よりも良好な結果を得ることに成功しています。

具体的には、第I相臨床試験で次のような結果が出ています。

ナルコレプシー患者27名に対し、13名には偽薬、14名にTAK-925(TAK-994の静脈注射)を投与したところ、偽薬の患者は平均2.9分で入眠したのに対し、実薬の14名は40分間の検査時間いっぱいまで覚醒を維持したのです。

副反応は見られず、既存薬よりも明らかに優れた効果を発揮しました。これらの良好な結果から、米国では画期的新薬(グレークスルーセラピー)に認定され、迅速承認の対象となっています。

ピーク時売上高として6,300億円の見通し

ナルコレプシー治療薬は、全世界で300万人という大きな市場です。

その中で最も優れた薬効と認められれば、医療機関は優先して処方するため、相当な売上高が期待できます。

武田薬品の見通しでは、TAK-994(経口薬)とTAK-925(静脈注射)の2つを合わせ、ピーク時売上高6,300億円が予想されています。

一般に、売上1,000億円を超える新薬は「ブロックバスター」と呼ばれ、成功した医薬品だと言われます。6,000億円越えの新薬は滅多に現れるものではありません。

武田薬品全体の売上高目標として、2030年までに5兆円が掲げられていますが、ナルコレプシー治療薬はその10%以上を担う重要な薬品です。

治験中断の原因と影響

原因は「安全性への懸念」

治験中断の原因は、安全性への懸念であると発表されています。

第II相臨床試験にてTAK-994を投与した患者の中に、健康を害するような事象が見られたのでしょう。

ただ、懸念の詳細については公式リリースでも明らかにされておらず、今後の発表が待たれます。

開発中止につながる恐れ

安全性への懸念というのは、新薬開発において致命的な問題です。

懸念が確定的となれば新薬自体が開発中止となりかねず、これまで開発につぎ込んできた労力と資金が無駄となってしまう恐れがあります。

単に効果が見られなかった、というのであれば、投薬量や回数などの条件を変えるなどの余地があります。しかし、安全性に問題があれば全てが白紙となってしまうのです。

静脈注射薬(TAK-995)も開発中止の可能性

安全性に問題が見つかったとして、それが成分に由来する問題なら、静脈注射であるTAK-925も開発中止となる可能性が高まります。

最悪の場合、ナルコレプシー治療薬のパイプラインが全て途絶えてしまいかねません。

ナルコレプシー治療薬は今後10年間の主力新薬になる計画ですので、パイプラインが途絶えてしまうことは業績が悪化することを意味します。

失われる売上高は、最大6,300億円が見込まれています。

2024年以降の「特許の崖」が現実味

開発中止によって特に懸念されるのが、2024年以降に訪れる「特許の崖」です。

特許の崖とは、新薬の特許が切れることで後発医薬品が市場に出現し、売上げが急速に減少することを言います。

2024年以降に予定されている大型新薬の特許切れは以下の通りです。

①多動性障害治療薬「ビバンセ」:2024年に特許切れ

②腫瘍性大腸炎治療薬「エンティビオ」:米国では2024年に特許切れ、欧州では2026年に特許切れ

ビバンセはピーク時売上高が3,000億円以上、エンティビオは6,000億円以上ですので、合計で1兆円近くの売上が失われる恐れがあるのです。

これをカバーする存在としてナルコレプシー治療薬が期待されていましたが、今回の治験中断で、特許の崖リスクが改めて意識されています。

開発中止による予想株価を算出

開発中止の場合の業績予想

予想株価を考える上で、まずは開発が中止になった場合の業績について考えてみましょう。

武田薬品の長期目標として、2030年に売上高5兆円、営業利益1.5兆円が掲げられています。

ナルコレプシー治療薬に期待される業績をそこから除外したのが、次の業績予想です。

ナルコレプシー治療薬を除外した2030年業績予想
  • 売上高 :4兆3,700億円
  • 営業利益:1兆3,000億円
  • 1株利益:550円

EPS 550円から、2030年株価5,500円を予想

1株利益(EPS)が出ましたので、あとは前提とするPER(株価収益率)を考えてみましょう。

過去のPER推移が次のグラフです。過去4年間の最小PERは14.8倍、最大PERは110倍でした。

武田薬品の過去4年間のPER推移(出典:マネックス証券

どの程度のPER倍率になるかは、将来の状況次第です。

次なる新薬が開発され、成長路線にあるなら高いPERが許容され、逆に新薬パイプラインが先細りして業績期待が萎んでいれば低PERに落ち込んでいるでしょう。

ここでは、悪い状況を想定し、PER10倍で予想株価を算出したいと思います。

したがって、2030年の予想株価を次のように算出しました。

予想株価=550円(EPS)×10倍(予想PER)=5,500円

本記事執筆時点での株価は3,200円付近ですので、長期的にはそれなりの株価上昇が見込めそうです。

ただし、この予想はナルコレプシー治療薬以外の新薬がほぼ全て成功する前提ですので、別の新薬が失敗に終わった場合は下方修正する必要があります。

一方、大型新薬候補の開発に成功すれば、業績拡大期待でより高いPERが許容され、株価を押し上げる可能性もあります。

治験中断後の証券会社の目標株価

目標株価引き下げが相次ぐ

TAK-994の治験中断が発表されてすぐ、各証券会社は目標株価引き下げを発表しました。

次の表がその一覧です。

証券会社レーティング目標株価
大和証券中立4100円 → 3200円
モルガンスタンレー強気 → 中立格下げ4200円 → 3400円
メリルリンチ強気 → 中立格下げ4700円 → 3700円
ゴールドマンサックス強気4750円 → 4300円
出典:MSTG

引き下げ前はどの証券会社も4,000円以上を目標株価としていましたが、引き下げ後は3社が3,000円台の「中立」としました。

唯一、ゴールドマンサックスのみが4,000円台で強気継続としています。

3,200円未満は買い時の可能性大

一方、本記事執筆時点の株価は3,195円で、上記の中で最も低い目標株価(3,200円)を下回っています。

株価3,200円未満は失望売りによる一時的な下落であることが考えられ、この価格帯は買いである可能性が高そうです。

もっとも、開発中止となればさらなる売り圧力にさらされるリスクは想定しておくべきかもしれません。

まとめ

治験中断に関する詳細と、開発中止になった場合の予想株価について考察しました。

売上6,300億円が見込まれる期待の新薬だけに、治験中断は投資家にとって衝撃的です。万が一開発中止となれば、2024年以降の”特許の崖”カバーする医薬品が不在となり、著しい業績悪化を止める手立てが無くなってしまいます。

安全性への懸念が解消されれば株価は回復に向かうと予想されますが、しばらくは予断を許さない状況が続きそうです。

しかし、長期的には他の新薬が売上をカバーし、2030年には株価5,500円まで回復すると予想しました。

10年間での上昇率としては物足りないですが、配当を取り込めばそれなりの収益になるでしょう。

日本生まれのメガファーマとして、今後の巻き返しに期待したいところです。