キリンホールディングス(以下、キリンHD)は国内有数の飲食銘柄として個人投資家に人気です。
配当利回りが3%超なのに加えて、株主優待もあるので、買いを検討している人も多いでしょう。
しかし、新型コロナ発生以降は株価が低迷しているのが難点です。
海外事業で失敗が重なり、さらに医薬品事業では法令違反で出荷停止を受けてしまいました。
これらの悪材料が2018年以降に出てきたことで、株価は5年にも及ぶ下落トレンドとなっています。
本記事では、キリンHDの株価が下落した6つの理由について解説していきます。
また、最後には調査会社の業績予想から、今後の株価予想について考察しました。
目次
過去10年の株価推移
キリンHDの10年チャート
まず、キリンHDの過去10年間の株価推移を振り返ります。
以下が過去10年の株価チャートです。
2016年から上昇し、株価は2倍に
キリンHDの株価は2016年から2018年にかけて上昇トレンドとなりました。
最高値では株価3,199円に達し、2年間での上昇率は+100%超(2倍)にもなります。
株高の理由は次の3点です。
悪材料連発で5年間の下落トレンド
しかし、2018年4月を頂点に株価は下落トレンドとなっています。
詳しい理由は後述しますが、新型コロナによるビール事業の壊滅、ミャンマー事業の撤退などが原因です。
また、買収した子会社の業績が悪化したことで、多額の減損損失を計上しています。
これらの結果、利益が低迷し、5年間にも渡る株安につながっています。
それでは、キリンHDの株価が安い理由について、次の項目から詳細に解説していきます。
理由① 2018年から業績悪化
最高業績から4分の1に減少
株価低迷の主因は、2018年以降に業績が悪化していることです。
以下、過去15年間の業績推移をご覧ください。
2017年を頂点に、当期利益(折れ線グラフ)が低下していることが分かります。
頂点での当期利益は2,420億円でしたが、2019年12月期には596億円と、4分の1にまで落ち込みました。
以降も利益が低迷しており、それと連動して株価も低迷しています。
3つの大きな減損損失
業績悪化の要因は複数ありますが、大きなウエイトを占めているのは減損損失です。
キリンホールディングスは26の子会社を抱えていますが、それらの業績が悪化すれば株式価値が下がり、取得価格との差が減損損失となります。
最近だと、オーストラリアの子会社、ミャンマーの子会社、国内医薬品会社で減損損失が発生しました。
合計の損失額は1,400億円にも達します。
このため、利益が減少して株価低迷につながっています。
主力のビール事業も悪化
主力のビール事業も悪化しました。
新型コロナ発生以降、居酒屋向けのビール出荷が減少して打撃を受けました。
また、オーストラリアでのビール販売も同様に悪化しています。
業務用ビールの売上は、2021年には50%未満(2019年比)となり、業績を大きく押し下げました。
これらの結果、2020年以降の業績が低迷しています。
理由② オーストラリア事業の悪化
LIONの業績が悪化
業績悪化のきっかけのなったのは、オーストラリア事業の悪化です。
オーストラリア事業の中核は子会社「LION」で、ビール・飲料を販売しています。
このLIONの業績が2019年から悪化しました。
2019年の業績(対前年度)を見てみましょう。
2019年度 | 2018年度 | |
---|---|---|
売上 | 2,998億円(-298億円) | 3,295億円 |
事業利益 | 414億円(-104億円) | 518億円 |
売上は1割減、利益は2割減少となっています。
キリンの営業利益は1,000億円ほどなので、-104億円は相当な痛手です。
特に厳しかったのは酒類で、-104億円の内、-83億円が酒類の利益悪化によるものです。
2023年度まで業績低迷が続く
その後もオーストラリア事業は悪化しています。
2020年度の事業利益は221億円と、前年比でさらに半分にまで落ち込みました。
2021年度からは徐々に回復してきているものの、2018年当時の利益回復は遠い状況です。
以下、2018年以降の業績を表とグラフにまとめました。
年度 | 売上 | 事業利益 |
---|---|---|
2018年度 | 3,295億円 | 518億円 |
2019年度 | 2,998億円 | 414億円 |
2020年度 | 2,922億円 | 221億円 |
2021年度 | 2,163億円 | 266億円 |
2022年度 | 2,560億円 | 315億円 |
2023年度 | 2,811億円 | 324億円 |
2024年度(予) | 2,963億円 | 353億円 |
為替影響でさらに悪化
為替もオーストラリア事業の業績を左右します。
現地通貨はオーストラリアドルなので、オーストラリアドルが対円で下落した場合、利益は悪化します。
その点、2018~2020年はオーストラリアドルの下落が続いたため、業績悪化に拍車がかかりました。
オーストラリアドルが下落した理由は、米中貿易摩擦の激化で豪州経済が悪化すると予想されたためです。
オーストラリアは中国との結びつきが強いため、輸出に制限がかかれば、輸出産業が打撃を受けます。
米中貿易摩擦で中国との貿易が制限されると予想され、為替はオーストラリアドル安に進みました。
2020年以降は為替が回復しているため業績の追い風になっています。
理由③ ライオン社の減損損失
571億円の損失が発生
オーストラリア事業の悪化に伴い、減損損失が発生しました。
減損が発生したのはLion社の株式評価です。
事業立て直しのため、Lion社のチーズ事業を売却しようとしましたが、売却価格が帳簿価格より低くなり、差額が損失となりました。
損失額は571億円となりました。
株価は10%強の急落
この損失により、2019年度の業績は大きく悪化しました。
従来、純利益は1,390億円の予想でしたが、これが819億円に下方修正されました。
4割超の下方修正は市場にとってネガティブサプライズです。
それにより、株価は2,500円から2,200円まで急落しました。
キリンホールディングス「減損損失の計上、豪州子会社の一部事業譲渡及び通期連結業績予想の修正に関するお知らせ」
理由④ 協和発酵バイオの業績悪化
行政処分で出荷停止
協和発酵バイオは2019年12月24日に出荷停止の行政処分を受けました。
理由は、医薬品を定められた手順と異なる方法で製造したためです。
これにより、2019年12月25日~2020年1月11日までの18日間、業務停止となりました。
協和発酵バイオ「弊社防府工場における製造出荷停止のお知らせとお詫び」
2年で100億円超の減益
行政処分の結果、業績は急悪化しています。
2019年度の決算(次図)では、前年比で−58億円の減益となりました。
続く2020年度決算(次図)でも−46億円の減益となっています。
わずか2年で100億円超の損失です。
それまでの業績は好調だっただけに、投資家の失望は大きく、株価は下落しました。
協和発酵バイオの業績推移
参考までに、協和発酵バイオ単体の業績推移をまとめました。
出荷停止前の2018年度は、売上782億円、事業利益81億円でした。
しかし、2019年度から急激に悪化し、2020年度、2022年度は赤字転落となっています。
年度 | 売上 | 事業利益 |
---|---|---|
2018年度 | 782億円 | 81億円 |
2019年度 | 749億円 | 23億円 |
2020年度 | 573億円 | -23億円(赤字) |
2021年度 | 530億円 | 4億円 |
2022年度 | 511億円 | -39億円(赤字) |
以下は上の表をグラフ化したものです。
右肩下がりで悪化している様子が分かります。
430億円の減損損失が発生
協和発酵バイオの業績が悪化した結果、減損損失が発生しました。
減損額は430億円です。
2019年2月に1,280億円で買収したばかりでしたが、わずか1年も経たないうちに巨額損失につながってしまいました。
キリンホールディングス「減損損失の計上に関するお知らせ」
理由⑤ 業務用ビールの販売減少
ビール販売が半分以下に減少
新型コロナ発生により、業務用ビールの売上は激減しました。
主な販売先である居酒屋で客数が減少したためです。
2019年の業務用ビールの販売数量を100%とすると、2020年は60%程度、2021年には50%未満にまで落ち込みました。
2020年度は-15%の減益に
最も大きな下げ幅となった2020年12月期決算では、国内ビールで-102億円の減益、国内飲料で-46億円もの減益でした。
さらに、オーストラリア事業(ライオン)でもビール事業が壊滅し、-207億円の減益となりました。
その結果、全体の事業利益は前年比-15%に落ち込みました。
株価は2,500円→1,800円に下落
新型コロナが発生した2020年は株価も低調でした。
2020年初頭の株価は2,500円でしたが、2月中旬に急落し、3月には1,800円台まで下落しています。
その後は多少戻したものの、新型コロナ発生前の株価までは戻っていません。
また、本記事執筆時点(2024年1月時点)でも株価は下がったままとなっています。
株価の本格上昇には、業務用ビールの回復が不可欠だと考えられます。
理由⑥ ミャンマー事業の撤退
軍事クーデターが発生
2021年2月、ミャンマーでクーデターが発生しました。
クーデターを起こしたのはミャンマー国軍で、大統領をはじめとする政府幹部45名を拘束し、政権掌握を一方的に宣言する事態に。
また、国軍の発砲で市民100名以上が犠牲になるなど、国内外で批判が強まりました。
キリンHDに批判の矛先
キリンHDは国軍系企業と合弁会社を運営していました。
その合弁会社はミャンマー・ブルワリーで、ミャンマー国内でビールのシェア8割を握る有力企業です。
しかし、その資金が国軍系に流れ、市民の弾圧に使われていると、国際的に批判されてしまいました。
その結果、キリンはミャンマーから撤退せざるを得なくなりました。
- 2015年8月・・・ミャンマーブルワリーを697億円で買収
- 2020年2月・・・クーデターが発生。キリンHDは国軍系企業に合弁解消を要請。
- 2022年2月・・・6月末までにミャンマーから撤退することを発表
- 2022年6月・・・ミャンマーブルワリー株を224億円で売却することを発表
- 2023年1月・・・株式の売却完了
416億円の減損が発生
撤退に伴い、51%を保有するミャンマー・ブルワリーの株式を売却することになります。
しかし、買収当時(2015年)の価格では売れず、減損損失が発生しました。
減損額は416億円にも上ります。
2015年の買収では700億円を投じましたが、売却価格は224億円となり、差額のほぼ全てが減損損失となりました。
成長事業の一つを失う
ミャンマーはこれから経済成長が予想されている国で、新興国の中で「最後のフロンティア」と呼ばれる重要国です。
その国から完全撤退することになったのは大きな痛手です。
今後の成長ドライバーが失われたことで、キリンHDの成長期待は下がってしまいました。
その結果、PERなどの株価指標が割安でも買われなくなり、株価低迷につながっています。
2024年度は増収増益
予想を上回る見通し
業績が低迷しているキリンHDですが、2024年度は増収増益の見込みです。
売上は+6.4%、純利益は+16.2%が予想されています。
純利益の市場予想は1,287億円だったのに対し、会社予想は1,310億円と上回ったため、株価は一時上昇しました。
以下が2024年度の業績予想です。
好業績の理由
2024年度が好業績なのは、価格改定やコスト削減が効いてくるためです。
これがコスト高騰の影響を完全に打ち消す見通しです。
以下が前年度からの利益増減分析ですが、コスト高騰影響の-370~350億円に対し、価格改定・コスト削減が+440~460億円となっています。
2024年度から再成長のフェーズへ
ただし、2024年度以降は再成長に向かうと予想されています。
独立系調査会社のTIWによると、2025年度までの業績予想は次のようになっています。
年度 | 売上 | 営業利益 | 純利益 |
---|---|---|---|
2023年度 | 2兆469億円 | 1,713億円 | 1,151億円 |
2024年度 | 2兆768億円 | 1,919億円 | 1,301億円 |
2025年度 | 2兆1,264億円 | 2,037億円 | 1,401億円 |
売上は横ばいですが、利益率が改善し、2025年まで増益が続く見通しです。
そのため、配当も徐々に増配されると予想されています。
業績が回復することから、今後の株価は上向くと考えるのが自然でしょう。
今後の株価予想
悪材料出尽くしで業績改善へ
2023年度からビール事業、医薬品事業ともに回復していきます。
国内ビールは+4.9%の増益、オーストラリア事業では+11.3%の増益、医薬品事業では+3.1%の増益となる見通しです。
この回復傾向は2024年以降も続く見通しです。
そのため、キリンHDの株価は上昇するというのがメインシナリオとなっています。
2025年までの予想株価
TIWの業績予想について、1株利益(EPS)・1株配当は次のようになっています。
年度 | 純利益 | 1株利益 | 1株配当 |
---|---|---|---|
2023年度 | 1,151億円 | 143円 | 69円 |
2024年度 | 1,301億円 | 167円 | 69円 |
2025年度 | 1,401億円 | 179円 | 75円 |
このEPSに、妥当なPERをかけることで予想株価を計算します。
PERとしては18倍を想定しました。
18倍の根拠ですが、同業他社の予想PER(下表)を参考に、平均値として18倍を採用しました。
企業名 | 予想PER (倍) |
---|---|
アサヒGH | 17.72 |
キリンHD | 17.38 |
サントリ食 | 20.42 |
サッポロH | 52.54 |
以上をもとに、2025年までの予想株価を計算しました。
その結果が次の表です。
年度 | 1株利益 | 予想株価 |
---|---|---|
2023年度 | 143円 | 2,574円 |
2024年度 | 167円 | 3,006円 |
2025年度 | 179円 | 3,222円 |
2024年あたりで3,000円突破
順調にいけば、2024年あたりで3,000円を超えてきそうです。
過去には2018年に株価3,000円を超えていたので、これから株価3,000円を超えても違和感はありません。
ビールなどの値上げ浸透や、医薬品事業の回復が成長ドライバーとなり、株価は上昇基調が続くと予想しています。
まとめ
キリンHDの株価が下落した理由を6つに分けて解説しました。
国内外の子会社で悪材料が相次いだ結果、5年間にも及ぶ株安を招いてしまいました。
また、ビール事業も打撃も大きく、株価は低迷が続いています。
しかし、いよいよ悪材料が出尽くした感があります。
今後の業績予想は良好で、予想の通りいけば、2024年あたりに株価3,000円を超えてきそうです。
配当と優待もそこそこもらえる銘柄なので、長期保有で株価回復を待つのが良い戦略だと考えています。
悪材料は出尽くしたと信じ、今年5月に株主になりましたが2,300円がほど遠く、含み損がそのままです。
今年にも株価上昇はあるのか?