明治ホールディングス(以下、明治HD)の株価は長期の下落トレンドに陥っています。
2016年までは「R-1」や「LG-21」のヒットに支えられて好調でしたが、競争激化により、最近は売上が減少傾向です。
業績は減収減益が続き、海外戦略の失敗から成長期待も剥落。
その結果、投資家離れが進んで過去6年間は株価下落が続きます。
果たして、なぜ明治HDはここまで不調に陥ってしまったのでしょうか。
本記事では、株価下落の理由を8つに分割して詳細解説します。
目次
明治HDの株価推移
過去10年間のチャート
過去10年間の株価推移を振り返りましょう。
以下が明治HDの10年チャートです。

「R-1」「LG21」のヒットで株価上昇
2013年までの株価は1,000円前後で低迷していました。
そんな時、「R-1」や「LG21」といった機能性ヨーグルトが大ヒットし、業績が一気に上向きます。
それにより、2013年以降は株価が大きく上昇し、2015~2016年は株価5,000円に達しました。

2017年以降は株価下落
2015年に時価総額が1兆円を超え、食品業界で勝ち組と言われました。
ところが、続くヒット商品が生まれず、2016年あたりからは他社の追従も始まりました。
成長期待が失われたことで、株価は2017年ごろから下落トレンド入りしています。
その後、株価は6年間にわたって下げ続け、現在は上場来高値(5,465円)から40%ほど安い3,300円で推移しています。
3,000円あたりで下げ止まりか
直近3年間に絞ってみても、下落トレンドとなっています。
しかし、3,000円あたりで下げ止まりの様子があります。
2020年3月のコロナショックでは3,085円まで下がりましたが、そのあたりが下値として意識されていそうです。
3,000円が底値となる可能性は十分あると考えています。

理由① 稼ぎ頭の「ヨーグルト・チーズ」が苦境
およそ10%の減収
2013年以降の成長ドライバーとなったヨーグルト・チーズ事業ですが、最近は厳しい状況です。
2022年度の上半期は10%近い減収が続きました。
3Qはプロバイオティクス(R-1やLG21)が+3.1%で若干持ち直しましたが、ヨーグルトが-8.9%と減収が続き、チーズは+0.2%で鈍い戻りです。

原価上昇で3割近い減益
原価の上昇も痛手です。
1~3Q(2022年4月~12月)は原価上昇が-155億円の減益要因となりました。
値上げによって108億円を吸収したものの、原価上昇分を補い切れていません。
さらに、エネルギーコストやマーケティング費用も嵩み、食品事業では-27%の減益となっています。

理由② 海外展開の遅れ
海外比率は6%、利益は赤字
海外展開が計画通り進んでいないのも株価低迷の一因です。
中期経営計画では、2023年度に食品の海外売上比率を10%に伸ばす予定でした。
しかし、2022年3Q時点の海外売上比率は約6%にとどまり、営業利益は-2億円の赤字です。
次の1年で6%を10%に伸ばすのは難しく、計画に遅れが出る可能性が高いでしょう。
中国への投資で失敗
2020年には中国の牧場経営の企業を買収しました。
買収額は約280億円で、中国事業の強化と乳原料の仕入れ元確保が狙いです。
しかし、新型コロナによって牛乳の需要が激減しました。
それにより、買収先の業績が悪化し、海外事業の悪化につながっています。
理由③ ヤクルト本社に劣勢
ヤクルト本社は好調
明治HDの競合はヤクルト本社(2267)ですが、業績面で劣勢です。
2社は似た業種の投資先としてよく比較されます。
明治HDは2016年以降の利益が横ばいで、特にコロナ禍では不調が続いていますが、ヤクルト本社は増収増益で好調です。
以下、1つ目グラフが明治HDの10年間の業績で、2つ目のグラフがヤクルト本社の業績です。


約60%のパフォーマンス差
2社の株価の騰落を比較してみると、差は歴然です。
以下チャートの濃紺が明治HD、水色がヤクルト本社の騰落です。

2022年以降、ヤクルト本社は一貫して上昇しているのに対し、明治HDは下落気味です。
過去3年間の騰落率では、ヤクルト本社が+55.1%、明治HDが-11.5%となっています。
つまり、2社のパフォーマンス差は66%もあり、ヤクルト側に投資資金が集中している様子が伺えます。
割安感は明治HDが上
株価指標を比べてみましょう。
指標 | 明治HD | ヤクルト本社 |
---|---|---|
予想PER | 19.0倍 | 28.5倍 |
実績PBR | 1.29倍 | 3.04倍 |
ROE | 13.5% | 10.6% |
配当利回り | 2.87% | 1.12% |
PER、PBRともにヤクルト本社が高く、期待値が高いことが分かります。
ただし、ROEは明治HDが上回っています。
また、配当利回りも明治HDが圧倒的に高く、割安感で言えば明治HDに軍配です。
そのため、必ずしもヤクルト本社が買いとも言えない印象です。
理由④ 自社株買いの終了
2022年末に自社株買いを実施
需給的な要因として、自社株買いの終了が下落要因となりました。
自社株買いが発表されたのが2022年11月8日で、終了発表が2022年12月27日です。
買付上限が100億円と小ぶりでしたが、設定された期間がおよそ3ヵ月と短く、株価上昇期待が高まりました。
株価は10%超の上昇も、その後下落
この期間、株価は上昇トレンドで好調でした。
発表当時の株価は3,000円台でしたが、終了が発表されたタイミングでは3,400円を超え、短期間で10%以上上昇しています。

しかし、自社株買い終了とともに株価は急落。
10営業日で3,200円まで下落しました。
その後も短期的な下落トレンドとなり、2023年3月には自社株買い前の水準まで下落しています。
理由⑤ サル痘感染者の減少
サル痘ワクチンで注目
明治HDは医薬品も手掛けていますが、一時はサル痘ワクチンで注目されました。
サル痘とは?
中央アフリカから西アフリカにかけて流行しているウイルスで、症状は発熱と発疹が主だが、小児等で重症化、死亡した症例もある。2022年7月に国内で感染が確認された。
参考:厚生労働省「サル痘について」
特に、米国では短期間で5,000人が感染し、新型コロナとの同時流行となりました。
日本での感染拡大が懸念されましたが、2022年8月2日に明治HD傘下のKMバイオロジクスがサル痘ワクチンの承認を得たことを発表。
それにより、サル痘流行による業績拡大が期待されました。

KMバイオロジクスはもともと天然痘ワクチンを生産しており、そのワクチンでサル痘の追加承認を得ました。
株価は一時3,500円を突破
ワクチン期待により株価は一気に上昇しました。
サル痘は天然痘と似ていることから、2022年6月には明治HDに着目した買いが始まっています。
その後、1ヶ月ほどで株価は3,500円まで上昇しています。

サル痘患者は減少
ところが、世界での感染者は8月上旬がピークとなりました。
その後は感染者数が急減し、2023年に入ってからはニュースにもなっていません。

また、日本での感染もほとんど起こらず、サル痘ワクチンの接種は広がりませんでした。
結局、株価は3,500円がピークとなり、その後は急落しています。
理由⑥ 成長のストップ
売上は横ばい、利益は減益傾向
明治HDの成長は2016年以降ストップしています。
売上はほぼ横ばいでゼロ成長です。
利益については、2022年、2023年と2年連続で営業減益が続きました。
2021年には1,060億円あった営業利益は、2024年には510億円に落込む見通しです。

2021年から売上が激減しているように見えますが、収益認識の変更があったためで、実質は横ばいです。
株価上昇もストップ
長期トレンドと重ねて見ると、成長がストップした2016年以降、株価上昇もストップしています。
成長施策が空回りした結果、投資家から見放されてしまいました。
とはいえ、国内市場でこれから大きく稼ぐのは難しいでしょう。
今後は海外事業をどれだけ拡大できるかが株価を左右しそうです。

理由⑦ 目標株価の引き下げ
各社の目標株価
業績の悪化によって目標株価は引き下げられています。
それにより、機関投資家からの売りが増えているようです。
下表に2023年3月以降に発表された目標株価をまとめました。
証券会社 | 投資判断 | 目標株価(変更前→変更後) |
---|---|---|
大和 | 中立 | 3500円 → 3200円 |
SMBC日興 | 中立 | 3200円 → 3000円 |
三菱UFJMS | 中立 | 3200円 → 3000円 |
みずほ | 中立 | 3050円 → 3225円 |
6,000円台前半がコンセンサス
どの証券会社も6〜10%程度、目標株価を引き下げています。
今は3,000円台前半がコンセンサスとなっているようです。
本記事執筆時点(2023年5月22日)の株価は3,300円なので、ここから株価上昇を狙うのは難しいでしょう。
理由⑧ 今後の業績も低調
四季報の業績予想(2024/3期まで)
明治HDの今後の業績予想を見てみましょう。
まず、四季報の業績予想です。
決算期 | 売上 | 営業利益 | 純利益 |
---|---|---|---|
2022/03(実) | 1兆131億円 | 929億円 | 875億円 |
2023/03 | 1兆580億円 | 775億円 | 620億円 |
2024/03 | 1兆1,200億円 | 785億円 | 625億円 |
2023年3月期は増収減益、2024年3月期は増収増益が予想されています。
ただ、利益はほとんど回復しない見通しとなっています。
この予想の通りに進めば、株価回復は難しいでしょう。
JPモルガンの業績予想(2025/3期まで)
証券大手のJPモルガンからも業績予想が公開されていました。
こちらは2025年3月期まで予想されています。
決算期 | 売上 | 営業利益 | 純利益 |
---|---|---|---|
2022/03(実) | 1兆131億円 | 929億円 | 875億円 |
2023/03 | 1兆500億円 | 833億円 | 593億円 |
2024/03 | 1兆733億円 | 854億円 | 582億円 |
2025/03 | 1兆920億円 | 876億円 | 596億円 |
四季報と数値の違いはありますが、利益回復が鈍いという点は共通しています。
明治HDはスーパーなどの大型小売店が主な販売先なので、値引きされやすく、利益率が悪いのが原因のようです。

競合のヤクルト本社はヤクルトレディによる直販モデルなので高い利益率を維持しています。
高配当や株価上昇は狙えない
2つの予想に共通しているのは、2023年3月期が業績の底であるという点と、2024年以降の回復が鈍いという点です。
今が業績の底なので、株価は今後反転するかもしれません。
一方、業績の回復が鈍いため、大きな株価上昇は難しいでしょう。
ディフェンシブ銘柄として保有する価値はありますが、積極的に配当や株価上昇を狙う銘柄ではないようです。
まとめ
明治ホールディングスの株価が下落した理由を8つに分解して解説しました。
国内有数の食品会社でありながら、業績が冴えないため投資家からは敬遠されています。
将来的にも業績拡大の見込みがないのも痛いところです。
ただ、失望されているからこそ投資妙味があるのも確かです。
業績回復や成長につながる材料が出れば、下落の反動で大きな株価上昇が狙えるかもしれません。
また、株価6,000円を大きく割り込む可能性は低く、6,000円台前半は案外買い時かもしれません。
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