KADOKAWAがランサムウェアで株価急落でも完全回復を予想する理由




KADOKAWAがサイバー攻撃によって社内システムが全面的ダウンし、しかも盗まれたデータが公開されて個人情報が流出した。

これを受け、株価は問題発覚前から-20%下落した水準まで売られている。

しかし、-20%という下落率はKADOKAWAが受けたダメージに対して妥当なのだろうか。

話題性が高い悪材料では売られ過ぎることがしばしばあり、今回もその可能性が高そうだ。

本記事では、KADOKAWAの株価が早々に回復すると予想する根拠について解説する。

株価急落までの経緯

ニコニコ動画・社内サーバーがダウン

まずはKADOKAWAの株価が急落した経緯について簡単に振り返ろう。

サイバー攻撃を受けたと第一報が出たのが2024年6月8日だ。

ニコニコ動画の運営チームがニコニコインフォにサイバー攻撃を受けた旨を掲載したのが最初だ。

現在、ニコニコは大規模なサイバー攻撃を受けており、影響を最小限に留めるべく、サービスを一時的に停止しています。調査および対策を急いで進めておりますが、サイバー攻撃の影響を完全に排除できたと確信し、安全が確認されるまで、復旧に着手することができません。

引用:ニコニコインフォより抜粋

この翌日には、親会社であるKADOKAWAも「8日未明より当社グループの複数のサーバーにアクセスできない障害が発生し、データ保全のためサーバーをシャットダウンした」と発表した。

株式市場は楽観視

発生当初は情報が少なく、よくあるサイバー攻撃と市場は楽観的だった。

そのため、株価下落は5~10%程度と限定的であった。

サイバー攻撃に関する発表直後は、株価下落は限定的だった。

復旧まで1ヵ月以上と発表、株価急落

深刻度が増したのが6月17日だ。

システム障害の復旧まで1ヵ月以上かかることが発表され、主力である出版事業にまで影響していることから、当初の被害想定よりも深刻であることが伝わった。

KADOKAWAは営業利益の半分以上を出版事業で稼いでいる。

そのため、出版事業に影響が出ると、屋台骨が揺らいでしまうのだ。

これにより、株価は3,000円を割り込むまでに下落した。

管理人

ニコニコ動画の被害だけであれば、全営業利益の2%程度なので影響は限定的でした。主力の出版にまで影響したことで深刻度が急変しています。

身代金支払いのリーク報道でさらに急落

その後も自体はさらに悪化した。

新興メディアNewspicksが「【極秘文書】ハッカーが要求する「身代金」の全容」と題し、KADOKAWAが5億円弱の身代金を支払ったとのリーク情報を報道したのだ。

しかも、本来得るべき取締役会の承認を得ず、ドワンゴ社長が独断で送金してしまったという。

その支払いによってランサムウェアが解除されれば万事解決だったが、犯人側はさらなる支払いを要求し、5億円弱の支払い損になった。

この失敗が明らかになったことで株価はさらに急落。

一時は2,700円を割り込むまでに売られた。

メディアからのリーク報道で事態の深刻度が増し、株価は一段安となった。

犯行グループによる声明で2,500円まで下落

最後の急落となったのが、犯人グループによる犯行声明だ。

6月27日に「BlackSuit」と名乗るハッカー集団が犯行声明が出され、1.5TBのデータをダウンロードしたこと、金銭支払いの交渉決裂なら7月1日にデータを公開することが書かれていた。

データの内容が不明なことから、株価は不透明感を織り込んでさらに急落し、一時2,500円まで下落した。

犯人側の要求に対し、KADOKAWA側は支払いを拒否した模様だ。

結局、盗まれたデータは7月1日に公開され、取引情報やN高・S高生徒の個人情報などが流出したようだ。

この流出によって騒動は大きくなっている一方、悪材料は出尽くしと見られ、株価は徐々に回復してきている。

株価が下がり過ぎである根拠

ニコニコ動画の利益は全体の2%

今回のランサムウェア被害は話題性が高く、株価の下落率は大きくなった。

しかし、被害額という観点でいえば株価は下がり過ぎと言える。

まず、サービス面で最も大きな影響を受けているニコニコ動画について考えてみよう。

ニコニコ動画はサービスが全面的に停止しており、1ヵ月経過した現在でも仮復旧の状態だ。

仮復旧のため、ライブ配信や広告などの収益はゼロの状態である。

とはいえ、ニコニコ動画を含むwebサービスの営業利益は、全体の2%程度に過ぎない。

サービスを正常に利用できないのは多くのユーザーにとって不都合ではあるが、収益面に限って言えば、影響は限定的と言える。

出典:2024年3月期 通期決算
管理人

2%というのも年間ベースなので、1ヵ月あたりでは0.17%程度(2%÷12ヵ月)にしかなりません。

出版事業への影響

最大の被害となりそうなのが、出版事業への影響だ。

出版事業は年間100億円の営業利益を稼いでおり、ここが機能不全となると、KADOKAWAグループの屋台骨が揺らぎかねない。

ランサムウェアによって販売に影響が出ているのが、主に既刊本だ。

全体の売上のうち、5割が新刊本、5割が既刊本となっており、既刊本の3分の1しか出荷できていないと説明されている。

出典:KADOKAWA グループにおけるシステム障害及び事業活動の現状について

つまり、全体の売上のうち、6分の1が失われている状況だ。

失われている売上を金額に置き換えると、年間でおよそ240億円、月間ではおよそ20億円という規模感だ。

正常化まで2ヵ月を要した場合、40億円程度の売上げ減少が見込まれる。

これが営業減益に直結すれば、20%程度の減益幅となり、影響は大きい。

管理人

株価が20%下落していることから、今の株価は影響を最大限に織り込んだ結果だと考えられます。

とはいえ、40億円分の売上は取り返せる可能性が高い。

現実的には品切れ解消後に遅れて売れると予想されるし、売上減少分がそのまま営業損失になるわけでもないので、実際の減益影響は数億円だろう。

したがって、利益面での影響は数パーセントに留まると考えられる。

オンラインショップの影響

KADOKAWAはオンラインショップ「ebten(エビテン)」を運営しており、このサービスも一時は完全停止となった。

しかし、別のショップに臨時ページを開設するなどの代替措置を取っており、販売は維持できているようだ。

多少の売上逸失はあっただろうが、オンラインショップ関連の損失は軽微だと判断できる。

支払ってしまった4億7,000万円の影響

ドワンゴの一存で支払ってしまった4億7,000万円分のビットコインは確定した損失だ。

では、この損失によって株価はどの程度下がるべきだろうか。

それは、株主資本の減少率から計算することができる。

KADOKAWAの株主資本は2024年3月末時点で1,780億円が計上されており、ここから4.7億円差し引いた割合が、理論上の株価の減少率だ。

計算すると、0.26%となる。

株価減少率=4.7億円(損失額)÷1,780億円(株主資本)=0.26%

金額こそ大きく聞こえるが、KADOKAWAグループの株主資本で見れば、無視できると言っても過言ではない金額である。

総じて、影響は限定的

ここまでランサムウェア被害による主な影響を確認したが、全てを足しても、影響は限定的だ。

しかも、早ければ2ヵ月以内に復旧できる可能性もある。

2ヵ月で復旧すれば利益面での影響は数パーセントに留まると予想される上、株価は数年先の業績まで込みで形成されているため、影響はさらに薄まる。

システム復旧の費用は数十億円規模だろうが、やはり一過性の要因だ。

したがって、株価が2割下げている現状は売られ過ぎだと判断できる。

今後の株価はどうなる?

事件収束までは株価不安定

今回の騒動が完全に収束するまで、短期的な株価がどうなるか見通すのは難しい。

犯行グループが公開したデータは全体の半分程度であるため、残りのデータを使って揺さぶりをかけてくるだろう。

その揺さぶりはダークウェブ内で公開されるため、市場関係者も見ることができ、内容によっては株価下落の材料となり得る。

したがって、完全に収束するまで株価は不安定化しそうだ。

事件収束で株価3,300円回復へ

事件が完全に収束すれば、株価下落分の大部分が回復するだろう。

今回は社内システムが大打撃を受けたものの、中長期の業績への影響は限定的だと考えられる。

公開されてしまった情報によってはKADOKAWAが批判の的になる可能性はあるが、そもそも悪いのは情報を公開した犯行グループである。

そのため、レピュテーションリスク(評判リスク)は限定的だ。

したがって、事件収束後は再び業績を評価する相場に戻り、株価は急落前の水準まで戻るのが妥当である。

具体的には、3,300円あたりが目指せる展開になるだろう。

個人情報流出に関しての損害賠償ですが、日本の場合はランサムウェア被害企業(つまりKADOKAWA)を訴えて多額の賠償金を取るのは難しいようです。

カプコンの例では株価完全回復

日本の上場企業が大規模なサイバー攻撃を受けた例は少ないが、カプコンの例は参考になる。

カプコンは2020年11月にランサムウェア攻撃を受けて社内システムが一時使用不可となった。

11.5億円の身代金を要求されたがこれを無視し、個人情報を含む数十万件の情報が流出した、という事件だ。

これにより、株価は1,500円から一時1,200円割れまで急落し、下落率は20%超に達した。

カプコンがランサムウェア被害を受けた当時の株価チャート。一時的に急落したが、1ヵ月後には回復した。

しかし、社内システムの復旧は早く、株価はほどなくして回復。

被害発生から1ヵ月後には急落前の水準にまで上昇した。

被害の規模感こそKADOKAWAとは違うが、話題性の高さから売られ過ぎる傾向にあるのは共通している。

カプコンの例から、KADOKAWAの株価もいずれ回復すると考えて良さそうだ。

まとめ

KADOKAWAのランサムウェア被害がどの程度株価に影響するかを考察した。

社会的なインパクトは大きく、短期的には実態以上に株価が下げているのが現状だ。

一方、被害の実態としては株価の下落率ほど大きくない。

株価は20%超下げている一方、利益面での影響は多く見積もっても年間利益の10%未満で、しかも一時的な損失である。

したがって、株価はいずれ急落前の水準に戻ると判断できる。

短期的には犯行グループの動きなど不確定要素が多いが、中長期目線では買い時となる可能性が高いだろう。




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