三井E&Sの港湾クレーン米国工場はいつ稼働する?2025年後半を予想する理由と株価見通し




三井E&Sが計画している港湾クレーン米国工場だが、稼働に向けた作業は順調に進んでいるようだ。

しかし、稼働開始は発表当初のイメージよりだいぶ遅くなりそうな気配である。

米国政府の支援金にアクセスするためには条件を満たす必要があり、製造・輸送のスキーム確立に時間がかかっている模様だ。

米国工場が稼働すれば売上2倍以上が見込めるだけに、三井E&Sの業績を左右する一大プロジェクトであるが、果たして稼働はいつになるのだろうか。

今回は、三井E&Sの港湾クレーン米国工場の稼働時期と株価見通しについて考察する。

管理人

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港湾クレーン米国工場についておさらい

ホワイトハウスの発表分に名指し

まずは港湾クレーン工場を米国に作ることになった経緯を振り返ろう。

事の発端は、2024年2月21日に米バイデン大統領が出した大統領令だ。

そこには、今後5年間で200億ドル(約3兆円)を投じて港湾システムの国産化や安全性向上を図ること、そして三井E&Sが港湾クレーンの米国生産を再開することが書かれていた。

これにより、三井E&Sが米国向け港湾クレーンを大量受注する思惑が浮上した。

しかも、米国工場を作る上で補助金を受け取れるというおまけ付きである。

株価は一時3倍に高騰

突如、米国の国策銘柄として浮上したことで、株価の急騰が始まった。

ホワイトハウスの発表前は1,000円付近だったのが、思惑先行で買いが殺到。

2週間ほどで2,800円まで上昇した。

以下チャートの赤枠が発表後の株価推移だ。

半年経過でも検討止まり

ところが、米国工場については投資家が期待したほどの速度感は無く、発表から半年経った現在も検討段階にとどまっている。

以下がこれまでのリリースを時系列でまとめたものだ。

米国工場検討の推移

協力ファンドや工場の候補地が決まるなど一定の進捗はあるが、製造や輸送などの細かい部分を詰めているところのようだ。

いつ工場が稼働できるかなど、具体的なことには言及されていない。

果たして、米国工場稼働はいつになるのだろうか。

米国工場の稼働時期

対中国との衝突に備える

稼働時期を予想する上で、そもそもなぜ米国工場の検討が始まったのかを考える必要がある。

米国が自国製の港湾クレーンを欲したのは、対中国の軍事衝突に備えてのことだ。

米国の港湾クレーンは8割が中国製だが、遠隔監視・遠隔操作の機能が備わっており、米中有事の際に海上輸送を妨害される可能性が浮上している。

また、コンテナの出所や目的地を追跡する機能を使用し、米国外の軍事作戦を偵察される可能性も指摘されている。

中国製クレーンに対するセキュリティ懸念が強まっている。画像は中国クレーンメーカーZPMCの港湾クレーン。出典:CNN

具体的には、中国による台湾進攻が目下の懸念だ。

台湾進攻は2027年にも準備が整うと予想されることから、遅くとも2027年には中国製港湾クレーンを減らしておく必要がある。

2025年内の工場稼働を予想

早く稼働させるに越したことはないが、米国の補助金を受けるためには条件がある。

それは、クレーンを構成する調達品のうち、55%以上を米国製とすることだ。

国の資金投下における規則「BABA法」

連邦政府が調達する物品は(1)米国内で製造されており(2)部材の費用全体の 55%超が米国で製造されていることを求める法律。三井E&Sはこの規則に準じて米国工場を検討している。

引用:日本貿易振興機構「主要なバイ・アメリカン関連の法令・規則

米国での港湾クレーン製造は長年にわたって途絶えてきたことから、55%を米国製とするには一定の時間を要するだろう。

この制約の下、2027年までに中国製港湾クレーンを一定数置き換えることが条件となる。

それを踏まえると、工場稼働は2025年後半になるのではないだろうか。

稼働開始時期の発表は2025年5月の期末決算を期待している。

しばらくは日本での製造がメイン

いきなり米国製比率を高めるのは難しく、工場稼働後も基幹部品は日本での製造となるようだ。

特に、強度に影響するクレーン下部・上部は日本の大分工場より輸送することが決まっている。

そのため、製造能力がいきなり高まることは期待できない。

大分工場で主要部品を製造し、米国に輸送するスキームが検討されている。出典:三井E&S Rolling Vision 2024-中⾧期的な目標設定について

当初は大分工場の製造能力を強化して更新需要に対応し、その間に米国での製造能力を高めることになるだろう。

今後、港湾クレーンの製造能力は100%を発揮すると見られ、製造能力の増強とともに業績拡大が見込まれる。

業績拡大と株価上昇はいつか?

業績拡大は2026年以降を予想

2025年後半に米国工場が稼働するとすれば、2026年3月期から限定的に業績寄与するだろう。

2027年3月期には通年での寄与が期待される。

その頃には港湾クレーンの生産能力も高まるだろうから、数百億円規模の売上増加、100億円規模の増益になりそうだ。

物流システム事業は規模倍増

これまでは主に新興国向けに港湾クレーンを販売してきたが、米国向け需要を獲得するとなると規模が変わってくる。

米国工場が独立して生産できるようになれば事業規模は倍増しそうだ。

現状、港湾クレーンを含む物流システム事業の受注高は700億円であるが、米国向け需要を獲得すれば、倍の1,400億円の受注は堅いと見る。

なぜなら、米国は海岸線が長く、新興国の比にならないコンテナ取扱量があるからだ。

営業利益ベースでは、物流システム事業だけで200億円程度が見込める。

2025年5月からの株価上昇を予想

米国工場稼働の目途がつくのが2025年5月という予想を踏まえ、株価上昇も同時期になると考えている。

同様に期待する投資家が多ければ、決算前にある程度上昇することになるだろう。

実際に米国工場稼働と、以降の見通しが発表されれば、株価は2,000円を軽く突破することが期待できる。

米国外への販売も強化か

海外展開は米国だけにとどまらないことも示唆されている。

2024年8月に公表された中期経営計画では、”米国を含めた港湾物流事業の世界的市場展開”とある。

工場新設まで踏み込むかは不明だが、米国外での販売を強化していくようだ。

出典:三井E&S Rolling Vision 2024-中⾧期的な目標設定について

世界的には三井E&Sのシェアは高くなく、成長の余地は存分にある。

この思惑が追加で浮上すれば、株価上昇のタイミングは早まるかもしれない。

まとめ

三井E&Sの米国工場がいつ稼働するかについて考察した。

支援金の対象になるため、クレーンの米国比率を高めるべく準備を進めているが、当初の期待よりも遅いというのが正直なところだ。

具体的な稼働時期には言及されていないものの、対中国を意識すれば、2025年後半には稼働すると予想した。

米国工場が業績に寄与し始めるのが2026年3月期、本格寄与するのが2027年3月期なるのではないだろうか。

株価面では、米国工場稼働の目途が立つと思われる2025年中頃からの上昇を期待したい。