化粧品最大手である資生堂の株価が下落基調です。
2019年には株価9,000円を超えていましたが、コロナ後になっても回復は鈍く、7,000円未満の株価に止まります。
資生堂がここまで急落した原因は何でしょうか。
本記事では、資生堂の株価を下落させている要因を10個に分解して解説していきます。
目次
追記:エスティローダーの不調で連れ安
米国株のエスティローダーが悪決算を発表し、資生堂にも売りが波及しました。
資生堂側の下落率は5%近くに達しています。

エスティローダーは5月3日に決算を発表しましたが、1株利益の見通しを3.29~3.39ドルに引き下げました。
市場予想は約5ドルだったため、期待外れの決算となり株価は急落。
発表前の約250ドルから、一時は200ドル割れまで売られました。

エスティローダーが不調である原因は中国です。
中国市場の回復が鈍く、売上は10~12%の減少を見込みます。
資生堂も中国に進出していることから、同様に不調であることが懸念され、株価が先行して下げる結果となりました。
理由① インバウンド需要の消滅
外国人観光客はほぼゼロに
資生堂の株価が下落した最大の要因は、インバウンド需要(外国人観光客の需要)が消滅したことです。
資生堂の化粧品は外国人から人気が高く、外国人観光客は主な収益源の一つでした。
しかし、日本政府による外国人観光客の受入れ拒否でインバウンド需要が実質的に消滅。
それにより、資生堂の業績は大打撃を被りました。
国内売上が15%減少、赤字に転落
インバウンド需要が消滅したことで失われた国内売上げはおよそ15%です。
打撃を受けたのは主に百貨店や免税店で、その結果、2020年12月期の業績は8年ぶりの赤字に転落。
先行きを懸念した投資家が売りに回り、株価は急落しました。

外国人観光客は回復予想
2023年は外国人観光客数が回復に向かう見込みです。
2023年末には2019年並みまで回復すると予想されています。
したがって、国内については2023年末にかけて業績が回復していくと期待できます。

理由② 外出自粛による売上激減
外出自粛も資生堂の業績に打撃を与えました。
特に、2020年1~3月は売上高が前年度比-18.6%、純利益に至っては-96%という大幅な悪化に見舞われました。
業績悪化を嫌気した売りが増加し、株価はわずか3ヵ月で30%超が失われています。
2021年以降は外出自粛も緩和されてきましたが、未だに国内売り上げは戻っておらず、当時のダメージは未だに残っています。

理由③ 化粧品市場が縮小し、回復も鈍い
市場規模は15%縮小
国内の化粧品市場は低迷が続いています。
2019年は3兆2,166億円だった市場規模は、2020年には2兆7,502億円に急悪化。
わずか1年で15%減少しました。
さらに、V字回復が期待された2021年も2兆8,415億円と振るいませんでした。
その結果、国内の化粧品市場は低水準に止まっています。
以下が2019~2021年の市場規模の推移です。
年度 | 化粧品市場規模 |
---|---|
2019年 | 3兆2,166億円 |
2020年 | 2兆7,502億円 |
2021年 | 2兆8,415億円 |
資生堂の業績も低迷
市場規模の低迷と同様、資生堂の業績も低迷が続いています。
2021年12月期は前年より回復したものの、2019年の売上には届かず。
2022年12月期の回復も鈍い見通しです。
業績回復には化粧品市場の回復が必須ですが、まだまだ見通しは立っていません。

理由④ 他の化粧品大手と比べて割高
化粧品大手との比較
資生堂のバリュエーションは他の化粧品大手と比べて割高です。
そのため、市場全体が低迷する中、下落率は他銘柄よりも大きくなっています。
株価が5,000円台前半まで落ちた今でもPERは48.4倍、PBRは3.86倍あり、割高だと見られています。
以下が化粧品大手との比較表です。

株価指標的にはまだ下落余地あり
PERが低いのは花王とポーラでおよそ20倍。コーセーでも38倍という水準です。
資生堂の株価がコーセーの水準まで調整されるとすれば、20%程度の下落率となるでしょう。
したがって、資生堂はまだまだ下落余地があり、買う場合は警戒する必要がありそうです。
理由⑤ 中国事業の成長鈍化
成長率が+29%→+2%に悪化
資生堂の化粧品は中国で人気が高く、近年は急激に売上を伸ばしてきました。
しかし、2021年に入って急激に失速。成長期待が剥落して株価低迷の一因となっています。
2021年4〜6月は前年比+29%の成長だったのが、7〜9月は2%に落ち込みました。
割引合戦に参加して自爆
理由はEC販売で化粧品の割引合戦が加熱しているためです。
資生堂も対抗して値引きを行いましたが、利益を損なった上、ブランド価値を毀損する事態に陥りました。
安売りによって自爆してしまった形です。
ブランドを売却して立直しを図る
中国事業を立て直すため、展開している中価格帯のブランドを他社へ売却することを決定しました。
売却するのは「bareMinerals」「BUXOM」「Laura Mercier」の3ブランドです。
この売却によって不採算のブランドを処理することができました。
今後は方針を転換し、高価格帯のスキンケア商品に注力していく予定です。
売上が減少するのは痛いですが、この戦略は株式市場からも評価され、発表直後は株価が上昇しました。
理由⑥ 2022年度1Qの業績が急悪化
売上が-1%のマイナス成長
2022年度1Q(2022年1〜3月)は業績が急悪化し、売り材料となりました。
決算前は業績回復が期待されていたものの、発表された業績は売上が-1%、営業利益は-52.3億円の減収減益でした。
原因は、中国と日本の業績が予想以上に厳しかったためです。
具体的には、日本での売上高は前年度比−3%の減収、中国では−14%という大幅な減収に陥っています。
欧州と米国は若干回復したものの、日本と中国の悪化を補うには至りませんでした。
−52.3%の減益が売り材料に
2022年度1Qの営業利益は44億円と、前四半期の92億円から−52.3%の大幅減益となりました。
事業売却である程度減益になることは想定されていたものの、想定以上の下落幅です。
事業売却の影響を除いた実質ベースでも減益で、投資家からネガティブな決算とみなされました。

理由⑦ 日経平均全体の急落
日経平均が短期間で8%下落
日経平均が落ち込んだことも資生堂の急落要因です。
資生堂は日経平均の225銘柄に含まれているため、日経平均の指数が売られた場合、連れ安する傾向にあります。
日経平均の動きを見てみると、2022年3月前半に急落しています。
3月3日には2万6,500円を超えていましたが、わずか6日後には2万4,000円台まで急落し、年初来安値を連続して更新してしまいました。

連れ安して20%の下落
日経平均の下落に伴い、資生堂の株価も6,600円→5,400円に急落しました。
同期間の日経平均の下落率は8%ほどでしたが、資生堂の下落率は20%にもなります。
株価指標が割高だったため下落幅が広がったようです。

理由⑧ 業績予想が市場期待を下回った
コンセンサス501億円の純利益に対し、400億円の業績見通し
2022年度の業績予想は市場期待を裏切るものでした。
資生堂が発表した業績予想は純利益400億円でしたが、市場の期待を表すQUICKコンセンサスは501億円でした。
つまり、2022年度は市場が期待するほどの業績を上げることはできない、と宣言したようなものです。
その結果、投資家の失望を招いてしまいました。
上値の重い展開が続く
しかし、業績予想の発表翌日は意外にも株価は上昇しました。
理由は、同日発表された増配や事業譲渡が好材料とされたためです。
ただ、あくまで一時的な好材料でしたので、その後は反落し、冴えない株価推移が続いています。
業績見通しが好転しない限り上値が重い展開が続きそうです。
理由⑨ 事業売却で減損損失が発生
中国ブランド売却で73億円の減損
事業売却で多額の減損損失が発生したことも悪材料となりました。
売却したのはメイクアップブランド「bareMinerals」「BUXOM」「Laura Mercier」の3つです。
減損損失額は73億円でした。
株価は7%超の急落
減損が発生したことで、2021年12月期の決算は下方修正を余儀なくされました。
従来は355億円でしたが、300億円に下方修正しています。
コスト効率化で若干緩和されましたが、355億円から300億円への下方修正はネガティブです。
業績予想の下方修正を受け、株価は一時7%急落しました。

理由⑩ 目標株価の引き下げが相次ぐ
最近の業績を受け、資生堂に対する証券会社の評価は引き下げられています。
2022年3月以降の目標株価推移を調べたところ、8社中7社が目標株価を引き下げていました。
以下が2022年3月以降に目標株価を変更した証券会社です。
証券会社 | レーティング | 目標株価(変更前→変更後) |
---|---|---|
メリル | 強気 | 6700円(新規) |
ジェフリーズ | 強気 | 9000円 → 8500円 |
マッコーリー | 強気 | 9300円 → 7000円 |
GS | 強気 | 8700円 → 7500円 |
岡三 | 中立 | 7000円 → 6850円 |
JPモルガン | 強気 | 8400円 → 7600円 |
三菱UFJMS | 弱気 | 6100円 → 5300円 |
UBS | 中立 | 9600円 → 6800円 |
証券会社の目標株価は公開されているため、下がると投資家心理は弱気に傾きます。
また、証券会社が持ち高調整の売りを出すのも下落圧力となり、結果的に株価は下落することになります。
まとめ
資生堂の株価を下落させた要因を10個に分解して解説しました。
株価下落の発端となったのは、主に新型コロナやウクライナ危機です。
そこから様々な悪材料が発生し、長期に渡る下落トレンドを形成するに至っています。
今後の見通しは不透明であるものの、米国や欧州の化粧品市場は先行して回復していることから、日本・中国の回復にもそう時間はかからないでしょう。
5,000円前後が底値である可能性は高いように思います。
本来の成長期待は高い銘柄ですので、下落したチャンスを逃さずに買っておきたい銘柄ですね。
本記事は2022年5月公開の記事を継続的にアップデートしているものです。一部公開当時の数値が残っていますので、ご容赦ください。