花王の株価が「2年間の下落トレンド」に陥った6つの理由




家庭用品の国内最大手である花王が、2年間も続く下落トレンドに陥っています。

2020年中頃までは新型コロナによるプラスの影響が評価されて株価は好調だったものの、次第にマイナスの影響が大きいことが明らかになり、株価は下落に転じました。

それから2年間、市場環境が想定通り回復せずに業績悪化が続き、株価は4,600円台まで下落。

高値からおよそ50%の株価が失われる結果となりました。

2020年までは高い評価を得ていたにもかかわらず、ここまで売り込まれた背景には何があるのでしょうか。

本記事では、花王の株価が2年間の下落トレンドに陥った6つの理由を解説していきます。

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理由① 原材料コストの増大

原材料価格が2〜3倍に上昇

花王の製品の主な原材料は石油化学原料とパーム油ですが、ここ2年間、価格の上昇が続いています。

原材料価格が上昇したことで収益が圧迫されているのです。

以下のチャートは原油価格とパーム油の価格推移を表していますが、2年間で原油価格は約2倍、パーム油は約3倍という水準にまで上昇していることが分かります。

石油化学原料の価格の元になる原油価格は、2年間で2倍程度に上昇した。出典:SBI証券
パーム油の価格推移。2年間で3倍超に上昇している。出典:世界経済のネタ帳

−160億円の減益要因に

原材料価格の上昇は花王にとってどれだけのダメージだったのでしょうか。

花王が公表している2021年度の損益分析図(下図)に記載されていました。

原材料価格の変動により、160億円の減益が発生した。出典:2021年12月期 決算説明会資料

この図から、「原材料価格変動の影響(ネット)」が160億円の減益要因となっていることが分かります。

2020年度の営業利益は1,756億円でしたので、およそ10%の減益率です。

利益が10%減というのは大きな痛手だと言えます。

今後の原材料価格はどうなる?

では、今後の原材料価格はどうなるでしょうか。

カギを握るのはロシアからの輸出量です。

ロシア産原油を主に輸入しているのは欧州各国ですが、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、禁輸に踏み切るかどうかが注目されています。

もし禁輸に踏み切れば、原油市場に出回る供給が減るため、原油価格はさらに上昇するでしょう。

最悪の場合、原油価格は最大300ドルに達するとの予測もあり、予断を許さない状況です。

理由② 市場回復の遅れ

主力市場がマイナス成長

花王の主力市場は「トレイタリー」と「化粧品」ですが、これらの市場規模は新型コロナで落ち込んで以降、回復が想定よりも遅れています。

トイレタリーとは?

洗剤、洗面用品、バス用品、オムツ関連の製品を指します。

実際の数字を確認してみると、2021年度のトイレタリー市場は前年度比98%で、−2%のマイナス成長でした。

同様に、化粧品市場も−2%のマイナス成長となっています。

従来の見通しでは、2021年度から回復傾向になるはずでしたが、見通しが外れてしまった形です。

トイレタリー市場の規模は前年度比-2%となった。出典:2021年12月期 決算説明会資料
化粧品市場の規模は前年度比-2%となった。出典:2021年12月期 決算説明会資料

市場縮小により、主力セグメントは売上減少

市場規模が微減だったこともあり、花王の主要セグメントはマイナス成長か横ばいとなりました。

各セグメントごとの2021年度の売上は次の通りです。

主要セグメントである「ハイジーン&リビングケア」「ヘルス&ビューティケア」「化粧品」の2021年度の売上は減少した。出典:2021年12月期 決算説明会資料

「ハイジーン&リビングケア」が-2.8%のマイナス成長、「ヘルス&ビューティケア」が-4.2%のマイナス成長でした。

また、「ライフケア」「化粧品」はほぼ横ばいでした。

唯一、ケミカルのみが売り上げを大きく伸ばしましたが、原材料価格上昇による要因が大きく、利益はほとんど伸びていないのが実態です。

営業利益は大幅減少

セグメントごとの営業利益が次の図です。

2021年度は「ハイジーン&リビングケア」「ヘルス&ビューティケア」が大幅減益となった。出典:2021年12月期 決算説明会資料

「ハイジーン&リビングケア」が-278億円、「ヘルス&ビューティケア」が-108億円という大幅減益でした。

「化粧品」が+51億円の増益となりましたが、他セグメントのマイナスを挽回するには至っていません。

「ケミカル」は売上高の伸びほどには営業利益が伸びず、+19億円の増益に止まっています。

全体としては、主要事業のマイナス幅が大きく、大幅な営業減益に陥ってしまいました。

理由③ 減損損失の発生

-70億円の減益要因に

株価下落を加速させた要因として、減損損失の発生があります。

減損が発生したのはベビー用紙おむつ事業です。

おむつ製造に関わる設備の減損が45億円発生しました。

それに加え、在庫の評価損も25億円発生したため、合計で-70億円の減益要因となりました。

紙オムツ「メリーズ」が中国で苦戦

メリーズシリーズは中国で高く評価されていたが、事業環境の変化で苦戦している。出典:花王公式HP

減損が発生した原因は、主力ブランド「メリーズ」の苦戦です。

メリーズは2019年頃まで中国での売り上げを大きく伸ばしてきました。

しかし、粗悪なコピー品が出回ったことでブランドが棄損。

さらに、メリーズ商品を大量に捌いていた転売業者が中国当局の規制対象となり売上げが低下しました。

中国での現地生産を強化

ブランドイメージ回復を目指し、2021年度から中国での現地生産を強化しています。

現地生産を行う目的は、生活者ニーズや環境変化を素早く取り込むことです。

しかし、現地生産を開始したことで日本での生産設備が余剰となりました。

それにより、45億円の減損損失が発生してしまったのです。

理由④ 3年連続の減益決算

3年間で−30%の減益

花王の業績は過去3年間で大幅な減益に陥っています。

純利益は2018年の2,077億円がピークでした。

それから3年後の2021年には1,435億円まで低下し、2018年比で30%を超える減益率となりました。

決算期売上高純利益
2018/121兆5,080億円1,537億円
2019/121兆5,022億円1,482億円
2020/121兆3,820億円1,261億円
2021/121兆4,188億円1,096億円
花王の純利益は3年間連続で減少している。出典:日本経済新聞

悪材料の小出しでジリ下げ展開に

しかも、一定期間ごとに新たな悪材料が発生したのも株価下落が長引く要因でした。

大きい悪材料だけでも、2019年は消費税増税、2020年は新型コロナ、2021年は原材料価格高騰、といった具合です。

来期の業績は反転する、という期待感が急落を防いできただけに、株価の底が見えないジリ下げが続いています。

2022年12月期は増益なるか

2022年12月期は4年ぶりの増益が予想されています。

花王の業績予想では、2022年12月期は+7%の増益となる見通しです。

証券アナリストの予想もおおむね増益予想となっており、2022年12月期は増益を達成できる可能性が高いと言えます。

減益ストップとなれば株価反転も期待できそうです。

理由⑤ 連続増配の停止懸念

33年連続増配がついにストップか

花王は33年連続の増配を行なってきましたが、業績悪化に伴い、増配がストップする懸念が強まっています。

特に着目すべきは配当余力を示す”配当性向”です。

2018年時点では37%でしたが、2021年には62%まで高まり、配当余力が減少していることが分かります。

以下、配当が純利益に占める割合(配当性向)の推移を表にしました。

決算期1株利益1株配当配当性向
2018/12324.3円120円37.0%
2019/12312.8円130円41.6%
2020/12266.2円140円52.6%
2021/12231.4円144円62.2%
2022/12246.9円148円59.9%

配当性向が上昇した理由

配当性向が上昇している理由は、利益が減少する中でも増配を止めなかったためです。

2018年は1株利益324.3円に対し、1株配当は120円でした。

それが、2021年には1株利益が231.4円に減少したのに対し、1株配当は148円に増加しています。

利益減少、配当増加という2つの原因によって配当性向が高まってきています。

減配となれば株価下落は必至

もし2022年12月期以降で減配となれば、株価は下落する可能性が高まります。

花王は増配銘柄の鉄板であるだけに、増配ストップとなれば投資家にとって衝撃です。

また、増配方針の変更は経営陣の自信の無さの表れとみなされます。

その自信の無さは投資家にも伝わりますので、将来的な業績悪化を見込んで売りが先行する展開となってしまうでしょう。

理由⑥ 期待値未満の業績見通し

2022年12月期が市場予想を下回る

2022年12月期の見通しが弱気だったことで、株価下落に拍車がかかりました。

会社側からの正式な業績予想が発表されるまでは、基本的にコンセンサス予想が株価の前提となります。

しかし、花王が発表した業績見通しはコンセンサス予想を下回るものでした。

以下の表が、花王側の会社予想とコンセンサス予想の対比です。

会社予想コンセンサス予想
売上高1兆4,900億円1兆4,777億円
営業利益1,600億円1,834億円
純利益1,170億円1,327億円
1株利益246.9円280円

株価は7.6%の急落に

10%以上もの開きがあったことで売り材料と見なされ、発表翌日の株価はギャップダウンとなりました。

発表前の株価は5,730円だったのに対し、翌日の寄り付きは5,500円。

その日は最安値5,295円まで下落したので、最大7.6%下落したことになります。

業績予想発表の翌日は-7.6%のギャップダウンとなった。出典:日本経済新聞

業績見通しは不透明、さらに下がる可能性も

弱気と見られた会社予想も達成できるか不透明です。

原材料価格はウクライナ情勢や新型コロナの感染状況に左右されるため、先を見通すことが困難です。

すなわち、花王の業績も先が読めないというのが実際のところでしょう。

原油価格は最大300ドル/バレルまで高騰する可能性も指摘されています。

そうなれば、業績予想の達成は困難でしょう。

ウクライナ危機や新型コロナが安定しない限り、見通しは不透明と言わざるを得ません。

まとめ

花王の2年間もの下落トレンドに陥った6つの理由を解説しました。

新型コロナやウクライナ危機によって事業環境が悪化し、業績悪化、増配ストップの懸念、期待値未満の業績予想という悪材料の連発につながっています。

当初は短期的な下落に終わるかと思われましたが、想定以上に業績悪化が長引いており、今後も不透明な状況が続くでしょう。

株価が反転上昇に向かうかどうかは、今回紹介した要因が解消されるかどうかにかかっています。




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