2021年7月21日:リリース
2022年7月10日:最新情報に更新
2022年7月22日:ハウステンボスグループの売却報道について追記
2023年には旅行者数が2019年を超える。そんな見通しが国際航空運送協会(IATA)発表され、旅行業会の先行きに光明が差しています。
旅行市場の回復見通しが立ったものの、HISの株価はいまだ安値水準。
コロナ前には3,000円を超えていた株価は、3割安い2,000円前後(2021年7月現在)で推移しています。
財務的なリスクや、新型コロナが想定以上に長引くリスクはあるものの、旅行の先送り需要が具現化すれば業績が急回復し、株価3,000円を一気に突き抜けるかもしれません。
株価の上昇余地はリスク以上に魅力的で、HISは買い時であると考えています。
本記事では、HISが買い時だと考える4つの判断基準について紹介していきます。
- IATAによると、2023年には2019年比105%の旅行者数まで回復する
- 2022年からハワイ・グアムへの旅行が可能となり、HISの業績回復が本格化すると予想
- 株価指標面は、PER面は若干割安も、PBRがかなり割高
- リスクvs期待リターン では期待リターンが上回ると考え、買い時であると予想
追記:ハウステンボスの売却案浮上の影響
ハウステンボスグループを数百億円で売却見通し
2022年7月21日に、HISが傘下のハウステンボスグループを売却するとの報道が出ました。
売却規模は数百億円とみられています。
理由は、コロナ禍で巨額赤字が続く中、自己資本が450億円まで低下しているためです。
自己資本の年間の減少幅は-200億円にのぼり、2年ちょっとで債務超過に陥る勢いです。
そのため、虎の子のハウステンボスグループを売却せざるを得なくなったのでしょう。

本記事の「長期借入金345億円の強制返済」の項目でも解説していますが、345億円の長期借入金の条件に、財務的な健全性を求める条項があります。今回の売却は強制返済を避ける狙いもあるでしょう。
若干ネガティブな印象
ハウステンボスの売却は投資家目線では若干ネガティブな印象です。
ハウステンボスはコロナ前はHIS全体の営業利益の3割程度を稼いでいましたが、これが無くなることで、コロナ後の業績回復余地が狭まります。
HIS株への投資はコロナ後の業績回復が前提ですので、HIS株の魅力が下がったと言えるでしょう。
HISの割安性は不変
ハウステンボスを手放すとはいえ、HISが割安であることは変わりありません。
コロナ前のHISのPERは17倍程度でしたが、2019年の業績で現在株価のPERを図ると、およそ10倍程度です。
業績回復を前提とすれば、以前としてHISは割安だと言えるでしょう。
投資判断① 業績と財務
2021年10月期は赤字転落
直近の通期決算である2021年10月期決算は純利益-500億円もの赤字に沈みました。
主力の海外旅行の需要が消滅し、売上高は-72.4%と大幅な落ち込みでした。
2019年10月期と比べると-85%という水準です。
コスト削減も焼け石に水で、一気に赤字に陥ってしまいました。

2022年10月期も赤字濃厚、3期連続赤字に
2022年10月期は前年ほどの赤字にはならないものの、赤字継続が予想されています。
本記事執筆時点の赤字予想は-288億円です。
HIS自身の予想は”未定”とされていますが、アナリスト予想を平均したQUICKコンセンサスの予想はありましたので、その数値を引用しています。

予想通り赤字となれば3期連続の赤字となります。
過去最大レベルの赤字が3連続となるわけですから、さすがに財務基盤が心配になってきますね。
財務は健全、現金1,000億円を確保
巨額赤字が続き、HISの財務状況は黄色信号が灯っています。
まず、企業の血液ともいえる現金は1,000億円を保持し、資金ショートの可能性は無さそうです。

流動資産合計は1,400億円を超え、2020年10月期よりも増えているくらいです。
一方、純資産が大きく減少しているのは懸念材料です。
2020年10月末は984億円ありましたが、2021年10月末は641億円まで減少しています。
このペースの減少が続けばあと2年で債務超過に陥るでしょう。

業績と財務の観点からは「ネガティブ」
業績と財務を総括すると、投資判断としてはネガティブです。
以前の会社予想では2022年10月期に黒字化のはずでしたが、赤字継続の可能性が濃厚です。
このままでは2023年10月期もどうなるか分かりません。
仮に2023年10月期も赤字が続けば、債務超過が本格的に懸念され、株価は下値を模索する展開になるでしょう。
HISを買うべきか、という問いに対して、業績と財務の観点からはノーと言わざるを得ません。
投資判断② 旅行需要の回復時期
国内旅行は2022年8月に回復
同業であるJTBによると、2022年8月の夏休みの国内旅行者は延べ7,000万人が予想されています。
2019年9月の国内旅行者数が7,240万人でしたのでほぼ回復する見通しです。
旅行大手のJTBは7日、夏休み(7月15日~8月31日)の旅行動向について、国内旅行人数は前年比75・0%増の7千万人になりそうだと発表した。1人当たりの平均費用は7・6%増の3万5500円で、消費総額は2兆4850億円。いずれもコロナ禍前の2019年に近い水準まで回復すると見込んだ。
引用:東京新聞web
HISは国内旅行も手掛けており、国内旅行需要の回復はHISの業績にポジティブに作用するでしょう。
ただし、HISの主力はあくまで海外旅行。国内旅行は売上全体の1~2割程度に過ぎません。
業績の本格回復には海外旅行の増加が欠かせず、海外旅行の回復が待たれます。

海外旅行は2023年に回復
海外旅行の需要回復時期は、2023年になると予想されています。
予想を出しているのは国際航空運送協会(IATA)です。
2021年5月26日に最新の予想を発表し、2023年には2019年比で105%まで回復する、と予想しました。
以下がIATAの予想内容です。
年度 | 2019年比 旅客数 |
---|---|
2020年(実績) | 24% |
2021年 | 52% |
2022年 | 88% |
2023年 | 105% |
HISの業績が本格的に上向くのは、2022年夏頃になると予想されます。
というのも、業績に大きく影響するハワイ・グアムへの渡航が再開され、夏休みに海外旅行者が増えることが期待されるためです。
ハワイ・グアムへの旅行が再開されれば、これまで先送りされてきた需要が顕在化するでしょう。
それにより、HISの業績に大きなインパクトを与えることが予想されます。
旅行需要の回復時期はポジティブ予想
国内旅行の回復と、ハワイ・グアム旅行の再開により、旅行需要の観点からはポジティブな印象です。
ひとたび業績が回復し始めれば、旅行の先送り需要が顕在化し、2024年まで右肩上がりの業績になることが期待されます。
みなさんもコロナが明けたら旅行に行きたい人が多いはず。
消費者目線でも、HISの業績が回復しそうな雰囲気ですね。
投資判断③ 株価指標
現在のPERは10.3倍相当
株価指標として、代表であるPER(株価収益率)をまず考えてみましょう。
HISは業績予想を未定としているため、基本的に予想PERを算出することはできません。
ここでは、業績回復を前提に、2019年業績と現在株価からPERを算出してみましょう。
PER=1,966円(現在株価)÷191円(2019年EPS)=10.3倍
※株価は2022年7月8日現在の1,966円を採用しています。
過去のPERは14~25倍で推移
上で算出したPER10.3倍というのは、HISとしてはかなりの割安水準だと言えます。
というのも、HISのPERは14~25倍で推移してきました。こちらがPER推移を表したグラフです。

新型コロナ発生直前は約17倍のPERでした。
業績が回復すればPER10.3倍で放置されることは考えられませんので、株価上昇が期待できます。
17倍まで戻るとしたら、上昇幅は1,280円となり、100株の投資でも12万円を超える値上がり益が獲得できることになります。
PBRは割高水準
一方、PBR(株価純資産倍率)は割高方向に振れています。
非常事態宣言のタイミングではPBR1.8倍程度でしたが、現在は6.5倍程度まで上昇してきました。
主に1株あたりの純資産(BPS)が減少しているのが原因です。
2019年10月末時点でのBPSは1,300円ありましたが、2022年4月末時点のPBSは300円まで減少しています。
1株あたりの純資産が減ったことで、株価が割高になってしまったのです。
株価指標の観点からは若干ポジティブ
PERの視点では割安、PBRの視点では割高であるという考察結果になりました。
どちらも重要な指標であることは間違いありませんが、PBRが非常に割高であるのは懸念材料です。
過去のHISのPBRは2~3倍で推移していました。
そのため、6倍超えはあまりに高く、株価下落によって是正される可能性があります。
したがって、株価指標の観点からは「若干ネガティブ」という結論にしました。
投資判断④ 今後のリスク
長期借入金345億円の強制返済
HISはシンジケートローンとして345億円の長期借入れを行っていますが、これが強制返済を迫られる可能性が浮上しています。
シンジケートローンとは?
シンジケートローンとは、お客さまの資金調達ニーズに対して、アレンジャー(幹事金融機関)がシンジケート団(融資団)を組成し、同一の契約書に基づき同一の条件で融資を行う資金調達の仕組みです。
引用:三井住友信託銀行「シンジケートローン業務」
このローンには以下2つの条件があります。
- 期末の純資産を前期の75%以上に保つ
- 2期連続の経常赤字を避ける
2021年10月期の決算で、これら両方の条件を満たすことができませんでした。
したがって、今後金融機関から返済を迫られる恐れがあります。
345億円の現金を失えば、預金残高は600億円台まで落ち込みます。
新型コロナで厳しい状況の中で現金を失えば、投資家からの信頼を失いかねません。
シンジケートローンの返済を迫られる可能性は大きなリスクです。
旅行需要の回復鈍化
2023年には旅行需要がコロナ前に戻ると予想されていますが、これが後ろ倒しとなるリスクが考えられます。
回復が遅れる要因は、ワクチン接種率の頭打ち、新たな変異型の流行などです。
特に、新たな変異型が出現し、ワクチンの効果が弱まるようなことになれば、旅行需要回復が1年以上遅れるかもしれません。
そうなった場合、HISが財務的に持つかどうか怪しくなってきます。
ギリギリ持ちこたえたとしても株価急落は免れないでしょう。
証券大手による投資判断の引き下げ
証券アナリストがHISに対して弱気判断をするリスクも考えられます。
HISをカバーしているアナリストは6名。目標株価の平均値は2,308円で、現在株価(約2,000円)から上昇予想となっています。

この目標株価は多くの投資家が参考にしていることから、仮に投資判断が引き下げられた場合、株価も連動して下落する恐れがあります。
まとめ
HISに投資する上で重要な4つの判断基準を解説しました。
業績・財務は厳しい状況で、株価指標面でも割高感が否めません。
しかし、2022年夏から旅行需要の回復が本格化することを踏まえると、株価は2,000円割れくらいが底値となり、反発に向かいそうです。
業績・財務や株価指標は過去の事ですが、株価を動かすのは未来の見通しですので、未来の材料を重視するべきでしょう。
期待も込めて、2,000円割れのHIS株は買い時であると考えています。