楽天が中国の大手企業「テンセント」から出資を受けたことが問題視されています。
出資を受けることで、楽天が持つ情報がテンセントへ流れてしまうというのが大きな懸念材料です。また、楽天は日本郵政とも業務提携を行っているため、日本郵政の情報も楽天経由で漏洩してしまうのでは、という事も懸念されています。
しかし、「出資を受ける=情報漏洩の危険」というのはどのように結びついているのでしょうか?
私自身、「なんとなく危険」という認識しかなく、なぜ情報漏洩の危険があるのか具体的には知りませんでした。しかし、調べて見ると、株主として企業情報を閲覧できる権利があるということが分かりました。
本記事では、楽天がテンセントから出資を受けることで、どのような情報漏洩リスクがあるのか、法律なども参照しつつ具体的に考察していきたいと思います。
- テンセントによる楽天への出資比率は「3.65%」
- 3.0%以上の出資者は「会計帳簿の閲覧及び謄写請求権」を持ち、テンセントは楽天の情報を閲覧できる
- 合理的な理由があれば楽天側は閲覧を拒否できる
- 業務提携まで踏み込めば情報漏洩の可能性は一気に高まる
- テンセントから出資を受けた楽天は、中国企業を警戒するアメリカで不利益を被る可能性がある
目次
楽天へテンセントが出資、その問題とは?
テンセントが657億円、3.65%を楽天に出資
2021年3月12日、楽天は日本郵政を筆頭に約2,400億円の資金調達を実施することを発表しました。
資金調達の内訳は、日本郵政が1,500億円、次いでテンセント子会社が657億円、その他ウォルマートなどが残りを出資するとなっています。
テンセント子会社が出資する657億円というのは、5,700万株、比率にして3.65%に相当します。
情報漏洩を懸念する声
この資金調達が発表されてすぐ、「楽天の顧客情報や重要技術が漏洩するのでは」という懸念が各メディアで相次ぎました。
テンセントは中国企業ですが、中国政府へ忠誠を誓っている一社であり、テンセントの子会社を通じて中国政府が情報を抜き取りに来る可能性が危惧されているのです。
実際、アメリカ政府はテンセントとの取引を自国企業に禁止する命令を出しています。テンセントからの出資は、アメリカ企業であれば実現しなかったでしょう。
楽天はアメリカに進出しているため、テンセントから出資を受けることでアメリカ事業で不利益を被る可能性があります。詳しくは記事後半で解説しています。
実際に情報漏洩することはあるのか?
ニュースなどでは出資と情報漏洩がどう関連しているのか、具体的な解説がありません。
ですが、出資による情報漏洩が発生する可能性は十分に考えられます。出資側は持株比率に応じた権利を得ることができ、楽天に対するテンセントの出資比率「3.65%」では、楽天の会計帳簿を見る権利を行使できるのです。
株主の権利「支配権」で情報閲覧が可能
出資比率に応じた株主の権利=支配権
株を持つというのは企業の一部を保有するということですので、割合が高くなれば、それに応じた権利を得ることができます。
その株主の権利は「支配権」と呼ばれます。
支配権の強さは出資比率に応じて法律で決められています。
以下、出資比率に応じた支配権の内容をまとめました。
持株比率 | 株主の権利 |
1.0%以上 | 取締役会設置会社における株主総会の議案請求権(会社法303条2項) |
3.0%以上 | ・株主総会の招集請求権(会社法297条1項) ・会計帳簿の閲覧及び謄写請求権(会社法433条1項) |
33.4%(1/3)以上 | 株主総会の特別決議を単独で否決する権限 |
50%(1/2)以上 | 株主総会の普通決議を単独で可決する権限(会社法309条1項) |
66.7%(2/3)以上 | 株主総会の特別決議を単独で可決する権限(会社法309条2項) |
テンセントの楽天への出資比率は3.65%なので、3.0%以上の権利「株主総会の招集請求権」「会計帳簿の閲覧及び謄写請求権」を得ることになります。
「会計帳簿の閲覧及び謄写請求権」で楽天の帳簿が見られてしまう
特に懸念されるのが、「会計帳簿の閲覧及び謄写請求権」を行使して楽天の会計帳簿が筒抜けになってしまうことです。
「会計帳簿の閲覧及び謄写請求権」では、具体的に以下の情報にアクセスすることが可能です。
- ・総勘定元帳
- ・現金出納帳
- ・仕訳帳
- ・契約書
- ・領収書
- ・伝票
これだけの情報が見られてしまうと、楽天がどこの企業と、どれだけの取引を行なっているかが分かってしまいます。
また、楽天はECサイト「楽天市場」で多くの出品業者を抱えていますが、取引履歴から、その情報も明らかになってしまうでしょう。
これらの情報がどう使われるかは分かりませんが、少なくとも、中国政府の手に渡ってしまうのは歓迎できません。
楽天側が拒否することは可能
明らかにヤバそうなテンセントの出資ですが、「会計帳簿の閲覧及び謄写請求権」の行使は拒否することが可能です。
もちろん、合理的な理由なしに拒否することはできません。しかし、楽天は個人情報や重要技術情報を持った企業であるため、テンセントが外国企業(特に中国企業)であることを理由に拒否することは可能でしょう。
特に、日本郵政の資本が1,500億円入ったことは安心材料と言えます。日本郵政は実質的に日本政府の子会社的立場ですので、日本政府がNOと言えば、楽天もNOと言わざるを得ないでしょう。
テンセントが楽天に出資した思惑は?
テンセントの説明では「純投資」
株主の権利で情報閲覧ができないなら、テンセントが楽天に出資した理由はなんでしょうか。
テンセント側の説明では、今回の出資は「純投資」だとされています。
つまり、株主としての権利を行使するためではなく、株価の値上がり、または将来の配当を目的とした投資であるということです。
将来的な提携も視野だが「リスク大」
今回は純投資だとしても、将来的にはやはりネットショッピングでの業務提携を視野に入れています。
事実、3月12日(2,400億円の資金調達発表)の会見では、楽天の三木谷社長が、テンセントとの協業についてEコマース分野で検討を進めるという発言をしています。
テンセントはSNS・電子決済・AI領域に強く、楽天が苦手とする分野を補完することができます。テンセント側としては、日本進出の足掛かりになるため、(国同士の問題を除けば)相互にメリットがある提携だと言えます。
協業するとなると、お互い情報を公開する部分が出てきます。決済などの仕組みにテンセントが関われば、取引情報が抜かれる懸念が途端に大きくなるでしょう。
また、楽天経由で日本郵政の情報を抜かれることも懸念材料です。膨大な個人情報が中国に渡れば国益を損なうことになります。
現時点ではテンセント側に悪意がなくとも、将来的に中国政府がどう絡んでくるのか不透明です。業務提携まで踏み込んだ場合、リスクが非常に大きくなると言わざるを得ないでしょう。
テンセント出資による楽天側のリスク
アメリカの規制を受ける可能性
楽天は米国事業も展開しており、成長戦略において重要な拠点です。
しかし、アメリカはテンセントとの取引や出資を受けることを禁止しており、今後、テンセントから出資を受けた楽天をどう扱うのかが懸念されています。
アメリカの情報が少しでも漏洩する可能性が出れば、楽天を締め出しにかかるかもしれません。
テンセントから出資を受けたことで、楽天は大きなリスクを負ったことになります。
日本政府の監視が強まる
さらに、日本政府からの監視も強まっています。
事実、本来3月29日に完了するはずだったテンセントの払い込みが延期され、3月31日に払い込みが行われました。これは、「外国為替及び外国貿易法」(いわゆる外為法)に抵触する恐れがあったため、日本政府がストップをかけたためです。
日本の場合、アメリカのような取引を無効にできる強権がありません。取引が実行される前に投資目的や情報漏洩の可能性について確認したのでしょう。
今後も日本政府の監視が強まると思われます。
参考:日本経済新聞「楽天、テンセントからの出資を31日に延期」
まとめ
テンセントによる楽天への出資で懸念される「情報漏洩」について、株主の権利や事業提携の観点から考察しました。
中国企業は基本的に中国政府の影響下にあり、隙を見せれば情報を抜かれてしまうリスクがある、というのが今や国際常識となっています。
日本政府も目を光らせているため、今すぐ情報が抜かれるようなリスクは無いと思われますが、今後の動きには注意するべきでしょう。
特に、アメリカがどう反応するかが大きなリスクです。テンセントとの協業内容次第では、楽天がアメリカから締め出されてしまう懸念があり、その場合は株価にも大きなマイナス影響を与えるでしょう。
テンセントから出資を受け入れたことは、楽天にとってメリットとデメリットどちらが上回るのか、現時点では不透明な情勢です。