株主優待新設のトヨタは買い?利回り・当選確率・株価上昇効果・業績見通しを徹底検証




国内トップの時価総額を誇るトヨタ自動車が、ついに株主優待を新設した。

株主優待は大口投資家に対して不平等な制度で、トヨタはこれまで距離を置いてきた。

一方、長期保有の個人投資家がいると株価が安定するというメリットがある。

メリット・デメリットを比較した結果、優待新設という結論になったのだろう。

個人投資家目線では、優待を加味した利回りが大きくなるため、買う動機が強まる。

今後、個人投資家の保有が増えて株価が上昇していくことも期待できそうだ。

本記事では、株主優待を新設したトヨタ自動車が買いなのかどうかを考察していく。

株主優待の内容

株主優待は2種類

まずは新設された株主優待の内容を確認しておこう。

優待内容は次の2種類だ。

トヨタの株主優待内容
  • 電子マネー残高・・・保有株数と期間に応じてTOYOTA Walletの残高を付与
  • 抽選への応募 ・・・レース観戦や商品の抽選に応募できる

100株以上の保有で両方が対象になる。

電子マネー残高の付与

保有株数と継続保有期間によって付与される残高が変わってくる。

出典:株主優待制度の導入に関するお知らせ

100株を1年未満の保有の場合は500円分の電子マネーがもらえる。

1年以上の保有になると1,000円に増額され、3年以上になると3,000円分にまで増額される。

優待利回りは次の通りだ。

電子マネー付与の優待利回り(100株保有、株価2,800円で計算)
  • 保有1年未満    ・・・優待利回り0.18%
  • 保有1年以上3年未満・・・優待利回り0.36%
  • 保有3年以上    ・・・優待利回り1.07%

ちなみに、保有期間は過去に遡ってカウントされる。

例えば2022年3月末の権利確定から100株を保有している場合、2025年3月末の優待はいきなり3,000円分がもらえることになる。

抽選への応募

抽選への応募は100株以上を保有の全員が対象だ。

内容は毎年変わるようだが、初回は5種類の抽選が用意されている。

これら5種類の中から1つを選んで応募することが可能だ。

出典:株主優待制度の導入に関するお知らせ

優待の魅力度は?

管理人

「利回り」「当選確率」の観点から株主優待の魅力度を考えていきます。

優待利回りは最大1%越え

優待のメインと言える電子マネーの優待は、3年以上の保有で優待利回りが1%を超える。

大型株でこれだけの優待利回りが取れるのは珍しい。

通信大手のソフトバンク(9434)は条件さえクリアすれば優待利回りが5%程度あるが、他の電子マネー付与の優待で1%を超える銘柄は見当たらない。

また、電子マネー以外を含めても優待利回り1%超えは少数派だ。

そのため、トヨタの電子マネー付与の優待は魅力が高いと言えるだろう。

3年保有に到達までは低利回り

3年以上の条件をクリアすれば利回り1%を超えるが、1年目と2年目は利回りが低い。

1年目は0.18%、2年目は0.36%の利回りだ。

2年目になれば一般的な利回り水準となるが、それでもKDDIやゆうちょ銀行などの方が高く、優待の魅力はやや落ちる。

優待に限って言えば、3年保有する自信がなければ他銘柄を買った方が良いという事になるだろう。

抽選の当選確率

抽選の方は利回りで考えるのは難しいが、おおよその当選確率を計算することは可能だ。

今年の場合、A~Eの当選数は全部で6,000だ。

一方、2024年3月末時点の個人株主数(1単元以上保有)は83万人だった。

出典:2024年3月期 有価証券報告書

これらの数字から単純に当選確率を計算すると、【6,000÷830,000×100%=0.72%】となる。

実際には、全員が必ずしも抽選に応募するわけではないため、当選確率はもう少し高くなるだろう。

一方、優待新設により個人株主数が増え、当選確率は上記より下がる方向になる。

結局のところ、当選確率は1%にも達しないと考えられ、抽選はおまけ程度に考えた方が良さそうだ。

優待の株価押し上げ効果は?

需給改善で株価上昇

株主優待には株価の押し上げ効果も期待できる。

優待目的で買う個人投資家が増える上、長期保有により需給の改善効果があるためだ。

長期保有する個人投資家が増えれば、それだけ市場に流通する株式数が減少し、結果的に売りが減って株価が上昇しやすくなる。

しかし、株価上昇効果は銘柄によって異なる。

今回のトヨタの株主優待ではどの程度の効果になるだろうか。

需給変化による株価への影響は小さい

一般的に、時価総額が大きい銘柄は流通株数が減っても株価が上がりにくい。

そもそもの流通数が十分であることや、アナリストによる業績分析が充実しているため、需給よりも業績主導の相場になりやすい。

そのため、仮に10%の株が新たに長期保有されたとしても、株価は10%も上がらないと考えられる。

しかし、ある程度の効果は期待できる。

新たに10%の株が長期保有されれば、その半分、5%程度の株価上昇は起こるだろう。

この前提で、株主優待導入の株価押上げ効果を検証する。

優待新設で4,000億円が流入(ゆうちょ銀行の場合)

まずは株主優待導入で個人投資家がどの程度増えるのか、過去の事例から推定しよう。

近年、優待を新設した大企業としては ゆうちょ銀行が思い当たる。

ゆうちょ銀行の場合、株主優待を新設したのが2021年11月で、当時の個人株主の保有株数はおよそ2億株だった。

それが、2024年3月末時点でおよそ5億株まで増加した。

流入資金としては4,000億円に達する。

管理人

ゆうちょ銀行は優待新設後に個人株主保有が10%増えた一方、株価は50%上昇しました。ただ、金利上昇などの上昇要因があったため優待効果を推し量ることは難しいでしょう。

期待できる上昇率は1%程度

では、トヨタにおいて同程度の資金流入があった場合、株価はどれくらい押し上げられるだろうか。

トヨタの時価総額は44兆円(2025年3月8日時点)のため、個人投資家が ゆうちょ銀行の時のように4,000億円買った場合、全体に対する保有比率は1%程度の上昇にとどまる。

そのため、株価上昇率は0.5%が精々だろう。

トヨタは ゆうちょ銀行よりも個人投資家に人気が高いと思われるため、流入資金は4,000億円を超えてくるかもしれない。

しかし、倍の資金が流入しても全体に対する比率は2%程度だ。

トヨタの時価総額はあまりに大きいため、個人投資家の影響は小さい。

残念ながら、株主優待新設による株価上昇効果はほとんど期待できないと言えるだろう。

トヨタの業績見通し

自動車販売は世界トップで好調

いったん優待の話題から離れ、トヨタ自動車という銘柄自体の今後を確認しておこう。

トヨタの本業である自動車製造・販売は絶好調だ。

2023年度は全世界で1,123万台を売り、2位のフォルクスワーゲンの924万台に対して200万台の差をつけてトップとなった。

2024年度も第3四半期時点で大差をつけており、世界トップとなる見通しだ。

トヨタの自動車は長寿命で故障が少なく、売却時も高い価格で売れることが知られている。

世界で高いブランド力を誇ることが好調の根本的な理由だ。

したがって、本業の自動車製造・販売においては好調が続くと考えて良いだろう。

為替の影響が大きい

直近の業績は、販売台数の好調以上に好調である。

営業利益は過去3年間で2倍以上に拡大した。

営業利益が好調であるのは、過去3年間の円安進行の影響が大きい。

2022年までは1ドル110円前後のレンジだったのが、直近では150円前後のレンジに移り、およそ40円もの円安となった。

2022年以降、ドル円は40円程度の円安となっている。

トヨタの為替感応度(1円円安での営業利益増益効果)は500億円と言われ、為替によってざっくり2兆円(500億円×円安40円)の営業利益が上乗せされている計算である。

実際、2021年3月期から2024年3月期にかけて営業利益は3兆円増加しており、そのうち2兆円が為替効果、1兆円が実力ベースの増益効果と分解できる。

つまり、トヨタの業績に対する為替の影響は非常に大きいのだ。

円高進行で大幅減益の恐れ

ところが、2025年に入ってからは円高傾向が鮮明だ。

年初には1ドル158円だったのが、3月初旬までに148円へ円高が進んだ。

年初の158円から2ヶ月ほどで10円の円高となった。

10円の円高は、単純計算で-5,000億円(為替感応度500億円×円高10円)の営業減益に相当する。

円高の要因が、米国景気の過熱感後退、日本の金利上昇という構造的なものであるから、今後も継続する恐れがある。

米国大統領であるトランプ氏が過度な関税を進め、米国が景気後退に陥れば、ドル安円高が急激に進むというシナリオもあり得る。

もし、2025年度の平均為替レートが1ドル140円程度となった場合、前期平均150円から10円の円高となり、-5,000億円の減益効果となる。

純利益ベースで-10%の影響があり、株価も同程度(-10%)下落する恐れがある。

管理人

現時点で米国経済は堅調なので、円高進行を過度に心配する必要はないでしょう。トランプ氏の関税も一時的なパフォーマンスとの見方が強まっています。

メインシナリオは好調継続

不安定な為替とトランプ関税がリスク要因だが、今後の見通しはおおむね良好だ。

EVブームが一旦落ち着き、トヨタが得意とするハイブリッド車の好調が続きそうである。

また、ソフトウェア中心の事業を開始することで収益力の拡大が期待されている。

短期的な悪材料で株価は振り回されがちだが、中長期目線では、業績・株価ともに好調が続く見通しである。

トヨタ株は買いか?

総合利回り4%超えが魅力

トヨタの配当利回りは3.2%(2025年3月時点)であり、電子マネー付与の利回り1%を加えた総合利回りは4%を超える。

優待利回り1%に達するには3年以上の保有が条件だが、すでに条件を達成していれば、保有し続けるメリットが大きい。

一方、これから購入した場合は初年度の利回りが3.4%程度(配当3.21%+優待0.18%)にとどまる。

とはいえ、そもそもの配当利回りが大きく、十分魅力的な利回りだ。

したがって、利回り面では「買い」といえる水準である。

株価指標も割安

株価指標面でも割安で買える水準だ。

予想PERは9.79倍と低く、過去の平均的なPER12倍を20%程度下回る。

また、実績PBRは1.02倍であり、解散価値と同程度の評価でしかない。

トヨタの株価指標(2025年3月7日時点、株価2,803円)
  • 予想PER・・・9.79倍
  • 実績PBR・・・1.02倍
  • 予想ROE・・・11.1%

ここまで割安であるのは、関税や為替リスクが織り込まれた結果である。

これらのリスクは十分織り込まれたと考えられ、さらなる株価下落リスクは限定的だと言える。

ROE20%なら株価2倍

トヨタは2024年末に「ROE20%」という新目標を打ち出した。

達成時期は2030年あたりとされ、実現なら株価上昇に寄与するだろう。

ROEは理論PBRに影響し、ROEが2倍になれば理論PBRも2倍になる。

直近のROEは11.1%であるため、ROE20%を達成すればほぼ2倍だ。

したがって、PBRは現在の1.02倍から2倍の2.0倍程度に上昇し、株価は2倍に上昇するのが妥当となる。

現在株価が2,800円付近のため、ざっくり5,000円は超えてくるイメージだ。

2030年という長期目線ではあるが、5年で株価2倍、しかもその間の配当+優待を取れるとなれば、今のうちにトヨタ株を買っておきたいところである。

まとめ

トヨタが新設した株主優待について解説した上で、今後の業績見通しも踏まえて株を買うべきかどうか考察した。

優待2種類のうち、抽選は当選確率が低くておまけ程度。メインは電子マネー付与の優待だ。

優待利回りは1・2年目は低いものの、3年目からは1%を超えてくるため、魅力は大きい。

配当利回りを含めた利回りは4%超に達する。

業績面においては、世界販売台数トップの地位を確かなものとしており、大きな不安はない。

短期的には、為替や関税が業績変動要因として株価を振り回すだろうが、長期的な影響は小さいだろう。

総じて、今回の優待新設は個人投資家にとって買いの好機だと考えている。