業績予想の下方修正でAGCの株価は急落しました。
円安の追い風はあったものの、それ以上に原料価格の高騰や製品価格の下落が響いたためです。
しかし、来期以降の業績は好調となる見通しですので、急落は買い時だと見ています。
四季報は2023年の純利益が1,320億円に達すると予想しており、そこから計算した妥当株価は6,000円となりました。
本記事では、AGCの株価が急落した原因と、今後の株価見通しについて考察します。
失望決算で株価急落
AGCの株価は2022年度3Q決算をきっかけに急落しました。
決算翌日の下落率は9.3%に達し、8ヶ月ぶりの安値水準に突入しています。

原因となったのは、塩化ビニルの販売価格が下がっていることと、ディスプレイの需要が低迷していることです。
塩化ビニル価格の下落は金利上昇に起因しています。
金利上昇で住宅需要が減少し、新築数が減少したことで、サッシや床材、配管に使われる塩化ビニルの需要が減少したのです。
さらに、中国ロックダウンの影響でディスプレイの生産数が落ち、ディスプレイ向けガラスの需要も低迷しています。
結果として、純利益予想を1,200億円から920億円に下方修正せざるを得なくなりました。
業績予想を下方修正
純利益予想を1,200億円から920億円に
11月2日の決算発表まで、AGCの業績は好調と見られていました。
通期の純利益は1,200億円が予想され、前年の1,238億円並みの好業績で着地するはずでした。
しかし、決算発表では純利益920億円への下方修正を発表。
920億円でも高水準ですが、下方修正に失望した投資家が売り手に回り、株価は10%近い下落となってしまいました。

8月の上方修正を帳消し
実は、8月の2Q決算では上方修正を実施しています。
1Q時点では純利益1,150億円だったところ、2Q決算で純利益1,200億円に増額した経緯があります。

上方修正からわずか3ヶ月で一転下方修正されるのは異例です。
投資家にとって予想外だったため、失望が強くなったという側面もありそうです。
塩ビ価格が急落
業績予想が下方修正された原因について見てみましょう。
AGCは塩化ビニルを販売する立場ですので、塩化ビニルの取引価格が高いほど利益が出ます。
また、塩化ビニルの主原料はエチレンですので、エチレンの価格が低いほど利益が出ます。
ところが、2022年7〜9月は塩化ビニル価格が急速に落ち、利幅が減少してしまいました。
以下の折線グラフが塩化ビニル価格とエチレン価格の推移です。

原料であるエチレン価格(水色折れ線)が下落していますが、それ以上に塩化ビニル価格(紺色折れ線)が下落してきています。
それに伴い、「塩ビ スプレッド」(灰色棒グラフ)と呼ばれるAGCの利幅も縮小してきていることが分かります。
塩ビ スプレッドの計算式
スプレッド=塩ビ市況-(エチレン市況×0.5)
2Q時点での塩ビ スプレッドは1トンあたり800ドル近くありましたが、それが3Qでは500ドル未満に縮小してしまいました。
想定以上に利幅が減少したことで、業績の下方修正につながってしまいました。
ガラス事業が採算悪化
前年比で大幅減益に
ガラス事業の悪化も深刻です。
ガラスに関連するセグメントは「ガラス」と「電子」ですが、ガラスセグメントでは前年同期比で営業利益が-115億円、電子セグメントでは-122億円となっています。

原材料価格が852億円の減益要因
悪影響を及ぼしているのが原材料価格の上昇です。
営業利益段階で-852億円の減益要因となっており、値上げが追い付かずに利益を押し下げました。
値上げが遅れていたら赤字転落もあり得たでしょう。

電子セグメントは減価償却が重荷
一方、電子セグメントの状況はもう少しマシです。
燃料価格が-51億円の減益要因となりましたが、値上げが+176億円の増益要因となっています。
ただ、設備の減価償却費が-220億円の減益要因となり、結果的に利益は半分程度に落ち込みました。
減益は減価償却が主因ですので、キャッシュフローとしては悪くありません。

配当利回りは5%に接近
利回りは4.79%の高配当
株価急落により、配当利回りは5%に接近しています。
1株あたりの配当が210円で、株価が4,380円(2022/11/8時点)なので、配当利回りは4.79%となります。
AGCの配当利回り=210円(1株配当)÷4,380円(株価)=4.79%
東証プライムの平均利回りが2.3%ほどです。
そのため、AGCの配当は平均の2倍超あり、高配当銘柄だと言えます。
減配の可能性
ただし、減配の可能性がわずかにあります。
AGCの還元方針は「配当性向40%」ですが、1株利益は415円となる見通しですので、方針に従えば配当は166円です。
210円の配当だと配当性向が50%を超えてしまいます。
したがって、減配の可能性は否定できません。
しかし、よほど大幅な減益にならない限りは配当210円が維持されると思われます。
予想PERは10倍で割安
AGCの予想PERはおよそ10倍で、割安な水準です。
東証プライムの平均PERは2022年10月時点で14.7倍となっています。
また、過去のPERと比べても低い水準です。
以下のグラフはAGCのPER推移ですが、異常値(2021年1月付近)を除くと、およそ10~14倍で推移してきました。
2018年以降で最も低いPERは7.5倍です。

PERが割安であることから、AGCがさらに急落するリスクは低いと言えます。
今後、1株利益が400円以上で定着すれば、株価上昇が狙えそうです。
円安が収益を押し上げ
下方修正したとは言え、AGCの純利益は高水準です。
2019年以前の純利益は平均600億円ほどでしたが、2022年度は920億円になる見通しです。
これほど稼げている理由は円安です。
IR資料によると、AGCの為替感応度は1%あたり7億円と記載されています。

2022年の為替は平均20%以上円安となっていることから、+140億円くらいの増益効果があったはずです。
純利益換算では+100億円くらいでしょうか。
したがって、円安によって本来よりも10%ほど利益が上乗せされていると考えられます。
一方、為替が円高に進めばこの利益が剥落しますので、円高が進んだ場合はAGCの株価にも悪影響となるでしょう。
来期以降も業績好調の見込み
AGCの業績は2023年12月期以降も好調となる見込みです。
四季報の業績予想によると、2023年12月期は売上高2兆2,120億、純利益は1,320億円に達すると予想されています。
決算期 | 売上高 | 純利益 |
---|---|---|
2022/12(会社予想) | 2兆500億円 | 920億円 |
2023/12(四季報予想) | 2兆2,120億円 | 1,320億円 |
2021年12月期の純利益が1,238億円でしたので、2023年はそれを上回り、過去最高を更新する見込みです。
また、JPモルガンの予想では、2024年12月期の純利益は1,531億円に達すると予想されています。
総じて、2023年以降も好調を維持する見通しとなっています。
今後の株価見通し
上昇予想が基本スタンス
来期以降の業績は拡大すると予想されており、株価は上昇する見通しです。
今期の純利益は920億円に下方修正され、株価下落につながりました。
しかし、2023年12月期は純利益1,320億円に拡大する見通しです。
実現すれば2007年以降で最高利益となり、株価も上昇に転じるはずです。
株価6,000円までの上昇を予想
具体的な予想株価を考えてみましょう。
純利益が1,320億円になった場合、1株利益はおよそ600円になります。
そこから、予想株価を次のように計算しました。
予想株価=600円(EPS)×10倍(PER)=6,000円
PER10倍は過去の平均的なPER水準です。
PERをいくつに設定するかで結果が大きく変わりますが、仮に過去最低の7.5倍としても4,500円と、現在株価(4,380円)を上回ります。
2023年に5,000円回復、2024年初めに6,000円
上記の予想株価から、今後の株価見通しは楽観的に考えています。
目線としては、2023年中には5,000円台を回復し、業績予想が実現した段階で株価6,000円に達する、というイメージです。
ただし、AGCの業績は市況に左右される部分が大きく、意外と株価が上がらない可能性もあります。
振れ幅の大きい銘柄は避けられる傾向があるためです。
エチレン価格や塩ビ価格、ディスプレイ需給が安定するかも株価に影響するでしょう。
まとめ
AGCが急落した理由と、今後の株価見通しについて考察しました。
業績は2023年も好調が続くと予想されているため、株価下落は短期的に終わりそうです。
むしろ、割安感が強まり、買いやすくなりました。
ここ2年間で高配当銘柄は上昇してしまい、配当が5%近い有力企業は希少です。
AGCはそんな希少な銘柄の1つだと考えています。