IHIの株価は共同開発エンジンの不具合に見舞われて急落しました。
不具合による損失額は1,500億円に達し、2024年3月期は過去最大の赤字に転落します。
また、資金不足から増資の可能性も出てきています。
その結果、株価は4,000円付近から2,000円台に下落しました。
一方、来期の業績はV字回復が予想されており、V字回復が実現すれば、今後の株価は4,000円回復が見込めます。
そのため、+50%程度の売却益も期待できるでしょう。
本記事では、IHIの株価が下落した理由について解説した上で、今後の予想株価を計算しました。
IHIの株価推移
現在の株価水準を確認するため、まずはIHIの株価推移を見てみましょう。
過去10年の株価チャート
以下が過去10年間の株価チャートです。
最高値は2014年末の6,370円、最安値は2020年4月の1,051円でした。
現在株価は約2,800円なので、最安値からは2.5倍に回復しているものの、最高値からは半額の水準です。
また、直近高値(4,000円)からは3割ほど下落しています。
それでは、過去10年間の騰落理由を簡単に振り返ります。
円安効果で株価6,000円突破
2015年までは航空機向けエンジンが好調だったことに加え、円安効果で株価が上昇しました。
特に、ドル円が100円台から一気に120円台へ円安となり、為替だけで+200億円程度の増益効果が生まれました。
そのため、株価は一時6,000円を突破しました。
赤字転落し、株価は1,000円台まで急落
ところが、2015年後半は株価が急落します。
原因の1つは、トルコで発生した事故による特損や、ブラジル海洋事業の業績悪化による特損が発生したためです。
2件の特損は合計380億円に及び、業績が急激に悪化しました。
さらに、アナリストによる投資判断引き下げや、業績予想の2度にわたる下方修正により、株価は一気に1,000円台まで急落しました。
結局、2016年3月期は7年ぶりの赤字に転落しています。
3年連続の増益で株価回復
赤字転落で株価が急落したものの、そのタイミングが株価の底となりました。
2016年以降は業績回復に向かい、2018年後半まで上昇トレンドが続きました。
エアバス向け航空機エンジンが好調だったほか、海外プラント事業の採算が改善したことが要因です。
結果として、株価は2018年9月に4,500円を回復しました。
エンジンの検査不正、新型コロナで再び急落
2019年はエンジンの不正検査が発覚し、株価は2,000円台まで下がりました。
続く2020年は新型コロナで航空エンジン事業が不透明となり、株価はリーマンショック以来の安値となる1,051円まで下落しました。
日本経済新聞「<東証>IHIが売り気配 航空エンジン整備で無資格検査」
一時4,000円回復も、エンジン不具合が発生
2020年末からは、航空産業の新型コロナからの回復や、小型原子炉への参入、そして業績の大幅改善と好材料が続きました。
その結果、株価は一時4,000円を回復するまでに上昇しました。
しかし、2023年後半からは一転して急落しています。
急落理由は次の3点です。
- 開発したエンジンに不具合が発覚
- 過去最大の赤字に転落
- 大規模増資による希薄化リスク
次の章から、上記3点について詳しく解説していきます。
開発エンジンに不具合が発覚
1,500億円の損失が発生
2023年以降の株価急落の主因は、共同開発したエンジンに不具合が発覚したことです。
これにより、1,500億円以上の損失が発生しました。
IHIの営業利益は数百億円規模ですので、1,600億円という損失額はあまりに大きく、財務基盤を揺るがしかねない事態となっています。
損失発生の理由は?
なぜこれほどの損失が発生したのでしょうか。
IHIは「PW1100G-JM」という国際共同開発エンジンに出資していました。
主導していたのはアメリカのRTXという企業で、2016年から販売を開始し、低燃費と騒音低減を売りに小型ジェット機に採用されました。
ところが、特定のエンジン部品に稀に異物が混入していることが発覚します。
3,000台のエンジンを急遽整備することになり、整備費用や航空会社への補償費用などが発生したことで、合計1兆円もの損失が発生したのです。
損失は出資割合に応じて負担することとなっていましたが、IHIは15%の出資比率だったため、およそ1,500億円を負担することとなりました。
損失拡大の可能性も
さらに、1兆円というのは見積もり金額です。
場合によっては損失が上乗せされる可能性もあります。
そもそも、発覚当初の検査対象は1,200台でしたが、これが3,000台に拡大した経緯があります。
そのため、今後追加の損失が発生してもおかしくありません。
過去最大の赤字に転落
最高業績から一転、最悪の業績に
エンジン事業の巨額損失により、業績は一転して赤字転落となりました。
それまでは営業利益900億円で過去最高を更新する見通しでしたが、-1,700億円下方修正され、-800億円の赤字見通しとなっています。
これは、赤字額としては過去最大です。
財務が悪化
損失を計上したことで財務が悪化しています。
2023年3月末時点での自己資本比率は22.2%ありましたが、損失計上後は14.5%まで低下しました。
さらに、今後は不具合が発生したエンジンの検査で現金出費が増加します。
2023年9月末時点での現金残高は1,161億円と、心許ない残高です。
対策として、みずほ銀行などから最大1,500億円の融資枠を取り付けていますが、金利が上昇する中、有利子負債の増加は歓迎できません。
大規模増資による希薄化リスク
増資なら株価下落
財務悪化の対策として、新株を発行する増資が懸念されています。
増資は既存株主にとって悪材料です。
新株が増えた割合だけ株式価値が希薄化するため、仮に発行済株式数の10%相当の新株が発行された場合、株価は10%下落するのが当然となります。
今回の場合、1,500億円の損失を穴埋めすべく、数百億円規模の増資になりそうです。
500億円増資なら10%の希薄化
もし500億円の増資が行われた場合はどうなるでしょうか。
1株あたりの発行価額を2,700円とすると、【500億円÷2,700円/株】でおよそ1,850万株の新株発行が必要です。
一方、発行済株式数は1億5,468万株です。
希薄化率を計算すると、およそ10%希薄化となります。
したがって、株価は10%下落することになるでしょう。
増資が行われる可能性は?
では、増資が行われる可能性はどれくらいでしょうか。
実際のところ、増資が行われる可能性はさほど高くないと考えられます。
なぜなら、IHIは東京湾岸の豊洲地区に2,300億円超の不動産を持っており、それを売却する手があるためです。
これまでも財務危機の時は不動産売却で乗り切ってきた経緯がありますので、今回も不動産の売却に走る可能性が高いです。
したがって、増資はされないか、されたとしても少額で済むのではと考えています。
今後の株価はどうなる?
2025年3月期までの業績予想
今期は過去最大の赤字になりますが、来期(2025年3月期)は一転して過去最高の営業利益になる見込みです。
以下が2025年3月期までまでの業績予想です(四季報より引用)。
決算期 | 売上 | 営業利益 | 1株利益 |
---|---|---|---|
2023/03(実) | 1兆3,529兆 | 820億円 | 294円 |
2024/03 | 1兆3,000兆 | -800億円 | -595円 |
2025/03 | 1兆4,500兆 | 950億円 | 430円 |
予想株価は4,300円
上の業績予想によると、2025年3月期には1株利益が430円になります。
株価は【1株利益予想×PER】で予想できますので、妥当なPERを設定して予想株価を計算してみましょう。
IHIの過去のPER推移を確認すると、2019年以降はおよそ10倍前後で推移してきました。
かなり低い水準ですが、IHIは業績のブレが大きく、10倍が妥当なようです。
したがって、2025年あたりの予想株価は次のように計算できます。
予想株価=430円(1株利益)×10倍(PER)=4,300円
+50%の売却益も狙える
四季報の業績予想が実現すれば、株価は4,000円以上に回復するでしょう。
本記事執筆時点(2024年1月24日)の株価が2,800円なので、+50%ほどの売却益が狙えます。
ただし、業績予想が下振れれば、予想株価もそれだけ下方修正する必要があります。
2025年3月期の会社予想が2024年5月に発表されますので要注目です。
いったん下がる可能性も
業績見通しが良好なことから、株価回復がメインシナリオです。
ただ、エンジン不具合の追加費用発生や、増資といった悪材料が出てくる可能性があります。
悪材料が実現した場合はいったん大きく下がることになるでしょう。
また、悪材料が出る懸念が薄れるまで、株価は上がりにくい状況が続きそうです。
まとめ
IHIの株価が下落した理由と、今後の予想株価について解説しました。
1,500億円という巨額損失が出た上、まだ問題が完全に収束していないことから、株価は割安になっています。
しかし、今後の業績予想を踏まえると株価上昇が狙えるタイミングでもあります。
長期的には株価4,000円回復が期待できるため、タイミングを見計らって買っておきたい銘柄だと考えています。
日本経済新聞「IHIの15年3月期、純利益73%減 ブラジル海洋事業で特損」