急落した関西スーパーは買いか?H2O統合後の「株価予想」と「買い時」を考察




紆余曲折あってH2O傘下入りが決まった関西スーパーですが、その代償として株価は急落し、既存投資家は大損害を被りました。

既存投資家は気の毒ではありますが、まだ関西スーパーを保有していない投資家にとって、今回の急落は買い時なのでしょうか。

オーケーによるTOBが明らかになる直前の株価はおよそ1,374円。現在株価(およそ1,100円)はそこから20%ディスカウントされた株価で、一見、割安のようにも見えます。

しかし、オーケーによる関西スーパー株の買い付けは2016年から始まっており、その思惑が株価を押し上げてきた経緯を鑑みると、単に下がったから買いという判断は危険です。

本記事では、関西スーパーの業績から算出した理論株価をもとに、買い時となる株価水準を考察しました。

結論:急落後の株価1,100円でも「買いではない」

まず結論から書いてしまうと、急落後の株価水準である1,100円は買いではないという判定になりました。

関西スーパーの直近の業績と株価指標から、株価1,100円は割高水準だと考えられます。

というのも、株価1,100円でのPBR(株価純資産倍率)は1.04倍ですが、このPBRを正当化するためには株主資本コストとして5.7%が許容されなければなりません。

株主資本コストとは?

投資家が企業に対して求める期待リターン。投資家からの評価が高いほど株主資本コストは低くなる(=リターンが低くても投資される)という特徴があり、理論株価の計算式の分母に位置することから、数値が低いほど理論株価を押し上げる作用がある。

しかし、スーパー業界の優等生であるヤオコー(8279)ですら株主資本コストは6.10%。規模でも利益率でも劣る関西スーパーが、ヤオコーより優良な株主資本コストであり続けることは難しく、この歪みは今後是正されていく(=株価が下落する)と予想されます。

開催スーパーに適用できる株主資本コストはせいぜい10%であり、そこから計算される理論PBRは0.59倍です。

その場合の理論株価は680円と計算され、1,100円から40%近く下落する可能性がありそうです。

関西スーパーが買いではない理由

利益率はスーパー業界で中の下

まず、関西スーパーが業界でどのような立ち位置なのかを確認しましょう。

関西スーパーは日本のスーパーの礎を築いた”名門”と言われていますが、近年は収益力の低下に悩まされ、スーパーの競争力を表す利益率は同業他社に見劣りします。

各スーパーの2020年度の利益率を順位で並べたところ、関西スーパーは40社中22位。

中の下という位置付けで、業界内での位置付けは高いとは言えなさそうです。

順位企業名利益率(%)
1神戸物産4.4
2ハローズ3.6
3イズミ3.4
4アクシアルリテイリング3.2
5サンエー3.2
6ベルク3.1
7セブン&アイ・HD3.1
8ヤオコー3
9Olympicグループ3
10JMホールディングス2.8
20バローHD1.7
21いなげや1.6
22関西スーパーマーケット1.6
23マックスバリュ東海1.5
24アルビス1.5
25オークワ1.4
35ヤマナカ0.9
36スーパーバリュー0.8
37ヤマザワ0.8
38マックスバリュ西日本0.7
39イオン九州0.6
40北雄ラッキー0.5

株価に重要なROEも低水準

株価にとって重要となるROE(自己資本利益率)も低水準です。

関西スーパーの2020年度のROEは5.9%でした。上場しているスーパー銘柄のROEは10%を超える場合も珍しくなく、関西スーパーのROEは業界内でも下から数えた方が早いくらいの位置付けです。

ROEは理論株価の計算式に含まれるくらい重要な指標ですので、ROEが冴えない関西スーパーの株価は他のスーパー銘柄と比較して低くなるのが妥当と考えられます。

一方、株価指標は優良スーパーより割高

しかし、直近の業績をもとにした株価指標は、他の優良スーパー銘柄を上回る割高水準となっています。

次の表では、スーパー銘柄の中でも競争力の高い5銘柄と、関西スーパーの株価指標を比較してみました。

銘柄予想PER実績PBR実績ROE
関西スーパーM15.6 倍0.90 倍5.90%
ライフC12.9 倍1.51 倍19.92%
ヤオコー19.1 倍2.15 倍13.23%
アークス11.3 倍0.77 倍8.59%
バローH9.7 倍0.79 倍9.20%
ベルク14.3 倍1.43 倍12.15%

まず予想PERですが、関西スーパーが15.6倍であるのに対し、ヤオコー以外の4銘柄はそれを下回る水準となっています。

一方、関西スーパーのROEは6銘柄中最下位。ROEが低いにも関わらず高いPERとなっていることから、関西スーパーの株価は実際の競争力以上に過大評価されていると言えます。

実績PBRの方はどうでしょうか。

実績PBRは予想PERほど歪みが少ないようで、6銘柄中4位の水準です。しかしそれでも、ROE 8.59%のアークスや、9.20%のバローHを上回るPBRというは割高と言わざるを得ません。

6銘柄中最下位となる0.7倍未満が妥当なPBRと言えるでしょう。

オーケーが全株式を売却

そもそも、関西スーパーの株価は2016年以前は800円前後が相場でした。

そこから1,000円台に離陸できたのは、オーケーが関西スーパーの株式を取得し始めたことがきっかけです。

オーケーとの連携によって業績が改善するという期待が、関西スーパーの株価を支えていたのです。

しかし、H2O傘下に入るという結論が出てしまったことで、オーケーは全株式を売却する意向を発表しています。

これまで期待されてきたオーケーとの協業の可能性はゼロとなり、 H2O傘下で業績が改善しないなら、株価は以前の800円台に戻るのが妥当なシナリオとなるでしょう。

関西スーパーの予想株価

理論株価は「680円」

関西スーパーの業績と他銘柄との比較から、理論株価として680円が算出されました。

計算方法は次の通りです。

理論株価=1,153.6円(BPS)×5.9%(ROE)÷10%(株主資本コスト)=680.6円

この計算では、【ROE÷株主資本コスト】で理論PBRを計算し、それとBPS(1株あたり純資産)をかけることで理論株価を算出しています。

BPSとROEは過去の実績から決まってきますが、株主資本コストをどの程度見積もるかがこの計算の肝です。

株主資本コスト10%というのは、他のスーパー銘柄の現時点での株主資本コストを参考に決めています。

銘柄株主資本コスト(株価から逆算)
アークス11.15%
バローH11.35%
ベルク8.26%
ライフC13.02%
ヤオコー6.10%

株主資本コストは小さいほど優れていますが、優良銘柄であるベルクやヤオコーはやはり低い株主資本コストとなっていることが分かります。

一方、アークス、バローH、ライフは10%台前半という株主資本コストです。

関西スーパーの実力はこれら5銘柄と比較して低く、本来は13%以上を設定するべきでしょう。

ただ、これから統合によるシナジーが実現するという期待も込みで下方修正し、10%を設定しました。

それでも理論株価は680円と、現在株価である1,100円から相当な乖離があります。

管理人

仮に株主資本コスト13%を設定すると、理論株価は523円まで低下します。

話題性剥落で株価1,000円割れを予想

割高であるにも関わらず1,000円以上の株価が維持されているのは、オーケーのTOB提案によって急騰した余波が残っていることと、急騰前の株価が1,000円前後だったことが考えられます。

しかし、H2O傘下に統合という結論が出た今、これから話題に上ることはほぼ無くなり、出来高も細っていくことでしょう。

急落はしないが、かといって上昇するわけでもない不人気株となり、じりじり下げる展開が予想されます。

業績が好転するような統合案がH2Oから発表されれば別ですが、いずれは株価1,000円を割り込むことになりそうです。

関西スーパーは「株価3,000円超え」を主張

一方、関西スーパー自身は市場の評価とかけ離れた自己分析を主張しています。

それによると、H2O傘下に入ることで株価は最大3,128円まで上昇するというのです。

根拠として示しているのは、外部専門家による客観的な企業価値評価(デューデリジェンス)です。

株価を算定したのはアイ・アール ジャパンとブルータス・コンサルティングで、それぞれ関西スーパーの統合後の株価を次のように算定しています。

統合後の関西スーパーに対する外部専門家の評価
  1. アイ・アール ジャパン:2,400円~3,018円
  2. ブルータス・コンサルティング:1,787円~3,128円

2社の評価に差はあるものの、現在株価に対して大きな乖離があることは共通しています。

ただ、この株式評価に用いた前提の詳細は公表されておらず、果たして現実的な前提に基づいた予想株価であるかどうかは不明なままです。

おそらく、経営統合の支持を得るために株主と約束した「2026年度の営業利益8割増」を根拠にしていると思われ、外部専門家もその前提をもとに機械的に株価を算出したまででしょう。

「2026年度の営業利益8割増」という目標は、スーパーとしてあり得ない伸び率として市場からは全く信用されておらず、オーケーが示したTOB価格2,250円を上回るためだけに立てた目標だと疑いの目を向けられています。

関西スーパーが主張する株価3,000円が実現する可能性はかなり低いようです。

関西スーパーの買い時は?

株価800円が重要な節目

上でも触れましたが、関西スーパーの株価が2016年に急騰した背景には、オーケーによる株式取得がありました。

しかし、TOBの可能性が潰えたことでオーケーは全株式の売却を行う意向ですので、2016年以降の急騰はリセットされるのが妥当なシナリオです。

オーケーが関西スーパーに関与する前の株価水準は800円前後だった。出典:日本経済新聞

したがって、急騰前の株価である800円前後がこれから重要な節目になると考えられます。

株価800円まで下がれば下落余地は限定的です。800円をサポートラインとして下げ止まる、あるいは反発する可能性がありそうです。

したがって、株価800円は関西スーパーの買い時の1つと言えるでしょう。

株価600円まで下がれば割安

800円のラインを下抜け、600円まで下落すれば割安水準に入ると予想されます。

理論株価は株主資本コスト10%を前提として680円を算出しましたが、株価600円なら株主資本コストは11%以上と見積もられ、現在のアークスやバローHと同程度となります。

現時点での関西スーパーの実力はアークスやバローHに及ばないものの、これからイズミヤ・阪急オアシスとの経営統合の効果が多少なりとも出るとすれば、株主資本コスト11%超えというのは過小評価になりそうです。

経営統合で何かしらの成果が出ることが前提ですが、株価600円まで下がれば買って良い水準だと言えるでしょう。

利回りから考えた買い時は?

関西スーパーは株主優待を実施していますが、優待銘柄は株価指標を無視した株価になることがままあります。

株主優待は株価指標には影響しない一方で、個人投資家の買い支えを誘うためです。

そこで重要になってくるのが、優待も含めた総合利回りです。個人投資家が高配当銘柄として見るのは、一般的に総合利回りが4.0%以上の銘柄で、関西スーパーも利回りが4.0%に接近するに従って個人投資家からの買いが増加することが期待されます。

以下、株価別の総合利回りを表にしました。配当は年16円/株、優待は100株で1,000円分として総合利回りを出しています。

株価総合利回り(配当+優待)
1,100円2.36%
1,000円2.60%
900円2.89%
800円3.25%
700円3.71%
600円4.33%

この表から、600円台で総合利回りが4.0%に近づくことが分かります。

700円を割り込んだあたりから、個人投資家が積極的に物色するようになってくるでしょう。

逆に言えば、総合利回りが3%に満たない1,000円以上の株価は、個人投資家にとって魅力的に映らないとも言えます。

利回り的な買い時は700円前後となりそうです。

まとめ

統合かTOBかで揉めに揉めた関西スーパーの買い時について考察しました。

今言えるのは、株価1,100円という株価水準は買い時ではないということです。株価指標的に明らかに割高だと考えられ、話題性がピークアウトするに従って株価は下落方向に是正されることでしょう。

本記事で計算した理論株価は680円となりましたが、2016年当時の株価である800円まで下落する可能性は十分ありそうです。

これから上昇する可能性があるとしたら、H2Oが画期的な統合案を発表することです。これまでに発表した統合案は投資家からの評価が低く、株価下落を招きました。

抜本的に見直した統合案が発表されることで、株価が再び上昇基調になるシナリオも考えられなくはありません。

現時点で関西スーパーが買いだとは思えませんが、今後の推移を見守りつつ、下げ過ぎたタイミングで買ってみるのはアリかもしれません。