日本製鉄が8年ぶりの高値を更新して絶好調です。
鋼材価格上昇、生産量回復という事業環境の良化に加え、固定費削減が功を奏しました。
業績は2年連続で過去最高を更新する見通しです。
株価はコロナ発生当初から4倍、2019年と比べても2倍に上昇しており、今後もさらに上昇しそうな勢いです。
本記事では、日本製鉄の株価がここまで上昇した7つの理由について解説します。
- 鋼材の値上げが浸透・・・値上げにより収益が改善
- 生産量の増加・・・販売量増加で売り上げも増加
- 固定費の削減・効率化・・・1,500億円の固定費削減
- 絶好調の決算・・・2年連続で過去最高業績を更新
- 高い配当利回り・・・利回り5%超えで投資資金呼び込み
- 低PBR銘柄に脚光・・・東証の改革期待で低PBR銘柄が上昇
- 目標株価の引き上げ・・・多くの証券会社が目標株価を大幅引き上げ
目次
日本製鉄の株価推移
過去10年の株価チャート
まず、日本製鉄の株価推移を振り返りましょう。
以下が過去10年間の株価チャートです。

株価レンジは800~3,600円と大きく変動しています。
鉄鋼需要は景気によって変動するため、日本製鉄は景気敏感株に属します。
そのため、景気動向で株価が大きく振られる特徴があります。
新型コロナで急落も、1年で回復
2020年は新型コロナで800円まで急落しました。
しかし、その後は鉄鋼需要の回復とともに株価も回復し、2021年にはコロナ前の株価を回復しました。
その後、原材料価格の上昇により鉄鋼の価格も上昇に向かいます。
鉄鋼価格上昇で利益が膨らみ、日本製鉄の株価は2022年まで堅調に推移しました。
2023年以降はさらに上昇
2023年に入ると、日本製鉄の株価は一段高の局面となります。
固定費削減の効果が顕在化し、業績は過去最高を更新。
それに伴い、配当も過去最高を更新しました。
さらに、東証による市場再編のフォローアップ会議で、PBR1倍割れ銘柄に対する改善案が出されました。
今後、PBR1倍割れの銘柄が資本効率改善に動くと見られ、PBR1倍割れ銘柄の株価が上昇。
日本製鉄はPBR1倍割れの大型株として注目され、2023年1月から株価が大きく上昇しました。
上昇理由① 値上げの浸透
+4,000億円の利益改善
日本製鉄は2021年度から値上げに取り組んでいます。
その成果は2022年度から現れてきていて、年間+4,000億円もの利益改善が予想されています。
それにより、2022年度の純利益は6,700億円となる見込みです。
コロナ前の2019年度は純利益2,500億円ほどだったので、表面上の純利益だけ見ても、確かに4,000億円の利益改善となっています。

強気交渉で値上げ成功
もともと、日本製鉄は価格交渉力の弱い企業でした。
トヨタ自動車など大口顧客に価格決定権を握られ、利益が出にくい状況が長年続いてきました。
しかし、EV増加による事業環境の変化や、原材料価格の高騰により、日本製鉄側は強気姿勢に転換しています。
値上げが拒否された場合、トヨタへの供給制限も匂わせたようです。
その結果、ただでさえ半導体不足で喘いでいたトヨタ側が折れ、大幅な価格改定に成功。
さらに、他の顧客も同様に値上げに成功しました。
2022年以降は改定後の価格で取引が始まり、利益が大幅に改善する見込みです。
シェア減少の恐れも
値上げを強行したことで、顧客が他社へ流れる恐れがあります。
また、構造改革で高炉を減らすため、生産量は減少します。
その結果、日本製鉄の世界シェアは減少するかもしれません。
日本製鉄は「量から質への転換」を掲げており、販売数量が減っても付加価値で単価を上げ、業績を伸ばす戦略です。
今後、その戦略の成否が注目されます。
上昇理由② 鋼材生産の増加
2023年は生産量が回復
2023年度は鋼材生産が回復し、業績の追い風になるでしょう。
日本鉄鋼連盟の予測では、2023年度は前年から若干の回復が予想されています。
生産量の回復予想は、つまり需要が回復する予想ということなので、鉄鋼業界の先行きは明るいようです。

休止中の高炉を再稼働
日本製鉄においては、2022年8月末に休止していた名古屋製鉄所の第3高炉を再稼働させました。
高炉は全10基なので、1基が再稼働できるかどうかは売上に大きく影響します。
この再稼働により、生産を巡る不透明感が解消され、再稼働発表時の株価は急上昇しました。

長期的にも需要は増加
長期的にも、鉄鋼需要は増加する見通しです。
こちらも日本鉄鋼連盟の予測ですが、粗鋼生産は2019年の18.7億トンから、2050年には27億トンと1.5倍に増加します。
さらに、2100年には38億トンと2倍に増加する見通しです。
そのため、長期的にも日本製鉄は業績拡大が期待できます。
日本鉄鋼連盟:鉄鋼業界の将来性
上昇理由③ 固定費の削減・効率化
1,500億円のコスト削減
日本製鉄は2020年から固定費の削減と効率化に取り組んでおり、2025年度までに1,500億円のコスト改善を見込みます。
既に、2020年度で350億円、2021年度で200億円の削減を実施しました。
2022年度は350億円の削減を見込み、累計900億円の削減額となります。
2025年度までにさらに600億円を上積みし、合計1,500億円のコスト改善となる計画です。

高炉を15基から10基に削減
コスト削減の主な施策は、高炉基数の削減です。
15基の高炉を2024年末までに10基まで減らします。
さらに、人員は協力会社含めて1万人を削減する方針です。
国内の生産能力は20%減少しますが、代わりに海外を強化して生産能力を確保する計画です。

上昇理由④ 好調な決算
業績は過去最高を更新
値上げと固定費削減の結果、決算は好調です。
2022年3月期は、前年の赤字から一転、過去最高の業績となりました。
売上は6兆8,089億円、純利益は6,373億円、1株利益は692円でした。
さらに、2023年3月期も最高利益を更新し、純利益を6,940億円まで伸ばしています。

2023年度は減益でも好調
今期は増収減益の見通しです。
売上は9兆円(前年比+12.8%)と躍進しますが、利益はほぼ半減の3,700億円(前年比-46.7%)となります。
ただし、在庫評価損などを除いた実力ベースの利益は前年から伸びます。
2022年度の実力ベース利益は7,340億円でしたが、2023年度は8,000億円以上の見通しです。
そのため、実質的には好調だと考えられます。
業績好調で割安に
1株利益は400円の見通しで、株価3,175円(2023年7月28日終値)はかなり割安に映ります。
株価指標は、予想PERが7.9倍、実績PBRが0.70倍です。
予想PERは東証プライム平均が15倍なので、目安の半分程度です。
また、実績PBRも解散価値である1倍を3割下回っています。
そのため、業績を維持できれば株価は上昇する可能性が高いでしょう。
上昇理由⑤ 高い配当利回り
減配も高配当を維持
配当利回りが高いのも投資資金を呼び込んでいる一因です。
2022年度は過去最高の1株180円の配当を実施し、高配当銘柄として注目されました。
2023年度は140円へ減配されるものの、まだ高い水準です。
以下が日本製鉄の配当推移です。

配当利回りは4%超え
これにより、配当利回りは4%後半の高水準になっています。
逆風が吹く中での高配当なので、業績回復後の増配に期待できます。
今後も高配当が続くなら、継続した株価上昇が期待できそうです。
減配のリスク
一方、高配当は一時的となる可能性もあります。
世界的な景気後退が鉄鋼需要にも波及し、業績が落ち込むシナリオは十分考えられます。
特に、売上の3割を占める自動車向けが落ち込む恐れがあります。
配当の減少に備え、集中投資は避けた方が良いでしょう。
上昇理由⑥ 低PBR銘柄に脚光
東証が割安是正へ
日本株は世界に比べて割安なのは有名ですが、2022年から東証が改善施策を検討しはじめました。
特に期待されているのが、PBR1倍割れの改善です。
PBR1倍は解散価値と呼ばれ、1倍を下回ることは、経営努力が足りていないと見られます。
東証のPBR1倍割れに対する見解は次の通りです。
資本コストを上回る資本収益性を達成できていない、あるいは、資本コストを上回る資本収益性を達成しているものの将来の成長性が投資者から十分に期待されていないと考えられる。
引用:市場区分の見直しに関するフォローアップ会議の論点整理
企業に改善策を求める
PBR1倍割れの企業に対しては、資本収益性の改善に向けた方針の開示を求めます。
具体的には、業績改善に向けた施策や、自社株買いによる資本効率の改善策です。
それにより、日本市場の魅力を高め、資金を呼び込む狙いがあります。
結果として、PBR1倍割れの銘柄は株価上昇が見込めます。
40~50%の株価上昇期待
日本製鉄はPBRは0.70倍です。
これがPBR1倍になるためには、株価が40~50%上昇する必要があります。
つまり、それだけの株価上昇が見込めるということです。
すぐにできる施策として自社株買いが期待されます。
直近で海外企業を買収したこともあり、早くても2024年だと思いますが、自社株買いによる株価上昇は期待したいところです。
上昇理由⑦ 目標株価の引き上げ
各証券会社の目標株価
多くの証券会社が日本製鉄の目標株価を引き上げています。
2023年以降に発表された目標株価を下表にまとめました。
証券会社 | 投資スタンス | 目標株価(変更前→変更後) |
---|---|---|
ジェフリーズ | 弱気 | 1650円 → 2050円 |
みずほ | 中立 | 1680円 → 2950円 |
CLSA | 中立 | 2400円 → 3200円 |
野村 | 強気 | 2900円 → 3520円 |
東海東京 | 強気 | 2810円 → 3660円 |
大和 | 強気 | 3200円 → 4000円 |
岩井コスモ | やや強気 | 2750円 → 3200円 |
メリル | 弱気 | 1980円 → 2350円 |
BofA | 弱気 | 1980円 → 2350円 |
総じて目標株価を引き上げ
弱気派も含めて目標株価を引き上げている点がポジティブです。
1,000円台が2,000円台、2,000円台が3,000円台、3,000円台が4,000円台と大幅に引き上げられています。
目標株価引き上げとともに、買いに動いた証券会社も多いでしょう。
2023年以降の株価上昇は証券会社の買いがかなり寄与しているはずです。
野村證券の目標引上げを材料視
特に材料視されたのは野村証券の目標株価引き上げです。
日本経済新聞にも取り上げられ、その後は一気に3,200円まで上昇しました。

今後のリスク
海外需要が減少
金利上昇により世界経済の後退が懸念されています。
景気後退となれば、自動車や住宅の鋼材需要が減少し、日本製鉄の業績は悪化するでしょう。
また、需要減少が始まっている地域もあります。
ヨーロッパはロシア・ウクライナ問題の影響が大きく、粗鋼生産量は減少傾向です。
また、中国もゼロコロナ政策の余波で減少しています。
日本製鉄は海外事業を強化する計画なので、海外需要の減少が続けば、成長戦略の見直しを迫られるかもしれません。
鋼材価格の下落
鋼材価格は2021年初めから上昇し、2022年9月には過去最高水準に迫っています。
過去最高だった2008年7月は鉄骨1トンあたり13万円でした。
2022年9月は12万6,000円まで上昇しており、2008年の価格に近づいています。

しかし、ここから急落することも視野に入れておく必要があるでしょう。
2008年はリーマンショックを契機に鉄鋼価格が急落しました。
2023年も金利上昇による銀行の倒産が実際に発生しており、同じ道を辿る可能性は否定できません。
日本製鉄は買いか?
業績好調の予想なので、買い時
鉄鋼需要は堅調で、今後も好業績が続く見通しです。
四季報によると、2024年3月期は売上8兆4,000億円、純利益6,540億円を確保する予想です。
2023年3月期が絶好調だったことを踏まえると、-3%程度の減益幅なら十分な利益だと言えます。
したがって、株価3,000円前後なら買い時だと言えるでしょう。
予想株価は5,500円
四季報によると、2024年3月期は1株利益が688円になる予想です。
コロナ前のPERはおよそ8倍だったため、予想株価はおよそ5,500円となります。
予想株価=688円(1株利益)×8倍(妥当PER)=5,504円
好業績が続く前提なので、この予想株価はあくまでベストシナリオとして考えるべきでしょう。
しかし、5,000円超えが狙える銘柄が3,000円前後で買えるというのは、やはり買い時のように思います。
鋼材価格下落のリスク
一方、鋼材価格の急落が大きなリスク要因です。
リーマンショックのような金融危機が来れば鉄鋼価格の暴落は免れません。
リーマンショックとまでにはならくても、米国の銀行が破綻し始めているため、一定の価格下落はあり得そうです。
そのため、株価下落の可能性はそれなりにあると予想しています。
まとめ
日本製鉄の株価が上昇した7つの理由について解説しました。
2019年当時から2倍に上昇してはいますが、業績的にはまだまだ上が目指せそうです。
ただ、長期保有には不安があります。
利回りは高いものの、鉄鋼需要は景気に敏感なため、何かあれば株価が急落する恐れがあります。
長期で保有すれば株価急落のタイミングを引いてしまう可能性が高まります。
短期~中期で、高値売却を前提に保有したい銘柄ですね。