バルミューダが急落した5つの理由と、2026年「予想株価10,000円」の根拠




2022年1月12日:リリース

2022年11月9日:最新情報に更新

”製造しない家電メーカー”として一躍脚光を浴び、2020年末に上場を果たしたバルミューダ(6612)が株価急落に直面しています。

高値からの下落率はなんと70%に及び、3分の1未満の株価となっています。

新型コロナを受けて減益となった上、期待のスマートフォン事業が出荷停止を食らってしまうなど、悪材料が連続して発生したのが株価下落の原因です。

さらに、海外で安く製造して稼ぐはずが、円安によりむしろ原価が高くなってしまっています。

現状、バルミューダにとって事業環境は最悪です。

一方、バルミューダが発表している売上計画を信じるなら、2026年には株価が再度10,000円を突破する可能性もあります。

そのため、一概に売りとまでは言えないようです。

本記事では、バルミューダが急落した5つの原因について解説した上で、今後の重要トピックや株価予想についてまとめていきます。

バルミューダの株価が急落

株価3,000円割れまで急落

バルミューダの上場以来の株価推移。上場直後の急騰移行、下落トレンドで推移している。出典:日本経済新聞

まずはバルミューダの株価推移について確認しましょう。

バルミューダは2020年12月16日に上場し、初値3,150円で取引が開始されました。

上場以降はほぼ一貫して株価が上昇し、およそ1ヵ月あまりで10,610円まで急騰しています。

しかし、期待先行で上昇し過ぎたことで、反動により下落トレンドに陥ります。

2021年2月以降の株価は弱く、上下を伴いつつも下落基調が続いています。

インサイダー取引、業績悪化、スマホ出荷停止など悪材料連発

株価下落の背景にはいくつかの要因があります。

大きかったのはやはり新型コロナの影響です。

原材料や輸送費が高騰した上、製造が計画通り進まず販売機会を逃してしまいました。

また、役員によるインサイダー取引が発生し、ガバナンス(企業統治)の弱さが露呈する事態に。

今後も同様のことが発生する可能性がリスクとして認識されています。

さらに、期待されていたスマートフォン事業において、スマートフォン出荷停止という根幹を揺るがしかねない悪材料が出てしまいました。

悪材料が連発された結果、高値から3分の1未満という株価水準まで落ち込んでしまったのです。

円安も逆風に

バルミューダはいわゆる”ファブレス”と呼ばれるメーカーで、自社の製造設備を持ちません。

その代わり、海外メーカーに生産を委託しています。

今までは海外で安く生産し、日本を中心に販売することで稼ぐことができていました。

しかし、記録的な円安で委託生産の費用が増加し、利益率が急低下しました。

その結果、いくら売っても利益が出ない状況に陥っています。

バルミューダが急落した5つの理由

理由① 投機筋による株価急騰からの反落

バルミューダが急落した最も大きな要因は、投機筋が主導した株価急騰です。

上場以降、株価は3,000円台→10,000円台に急騰しましたが、これは短期筋による買い上がりがほとんどで、長期的な投資家が不在でした。

そのため、株価が下落に転じると売りが売りを呼ぶ展開となり、株価が急落してしまったのです。

理由② 金利上昇がグロース株の逆風に

長期金利の代表格である米国債10年物の金利は上昇し続けている。出典:investing.com

金利上昇はこれから成長が見込まれる企業にとって逆風となります。

2020年12月期のバルミューダの利益成長率はおよそ30%でした。

株式市場はこの高い成長率を前提に目標株価を算定していますが、金利が上昇することで将来獲得する利益が目減りしてしまいます。

その結果、株式への評価が下がりました。

今後さらに金利が上昇すれば、株価にはマイナスに作用することになるでしょう。

理由③ 役員によるインサイダー取引

役員によるインサイダー取引によってバルミューダの株価は一時5%安に沈みました。

問題が発覚したのは2021年11月19日のことです。

バルミューダが業績予想の上方修正を行う直前、社外取締役が自社株を買い付けたことが実質的にインサイダー取引に該当しました。

処分として、その社外取締役には5ヶ月間にわたる役員報酬100%減額が下されました。

しかし、この事件はガバナンスの脆弱性を表していると見られています。

その結果、株価は5,000円→4,870円に下落し、下落トレンドを加速させる材料となりました。

理由④ 減益決算で利益がほぼゼロに

2022年11月8日の3Q決算を受けて本項目を更新しました。

2022年12月期の1~9月決算が減益となったことで、株価はさらに急落しました。

売上高は125億円と+12.7%伸びたものの、営業利益は434億円→1.57億円に悪化。

営業利益率は1.3%に縮小しました。

1株利益は5円しか出ておらず、ほぼゼロとも言える水準です。

2022年12月期3Q決算は営業利益1.57億円と、ほぼ利益ゼロに沈んだ。出典:2021年12月期 第3四半期決算説明資料

実態としては、広告宣伝費や研究開発費を400億円以上削っているため、実質赤字のようなものです。

営業利益が減益となった要因は主に2つです。

バルミューダが減益となった要因
  1. 円安による原価率の上昇
  2. 部品需給の逼迫による製品原価率の上昇
  3. 人手不足による人件費増加

いずれも新型コロナの感染拡大に起因する要因です。

これらの減益要因は長期化すると見られ、業績低迷を懸念した売りが株価を押し下げています。

理由⑤ スマホ出荷の一時停止

2022年の年明け早々、バルミューダのスマートフォンの出荷が一時停止という悪材料が報道されました。

スマホの製造は京セラに委託していますが、その京セラが「技術基準適合証明(技適)について確認事項が発生した」と連絡し、出荷の一時停止という処置がとられました。

具体的な販売再開の目途が立っていないことから株価は下落。発表翌日は3,740円まで値を下げ、年初来安値を更新してしまいました。

スマートフォン事業へ参入した当時の報道では、年初の売上高見込みとして27億円程度となると記載されています。

バルミューダの年間売上げが126億円(2020年12月期)であることを踏まえるインパクトのある数字で、市場はスマートフォン事業の進展に期待しています。

そんな中、出荷の一時停止という悪材料が出たことで、株価急落という事態になってしまったのです。

今後の焦点は「成長路線への回帰」

株価上昇に向けた今後の焦点は、コロナ前の成長力を取り戻すことができるかどうかに尽きます。

2022年12月期は3Q時点で利益率1.3%と、企業として稼ぐ力が失われています。

通期では利益が200万円しか出ない見通しです。

バルミューダの業績推移。2021年までは成長していたが、2022年は売上横ばい、利益がほぼゼロとなる見通し。出典:日本経済新聞

そこで勝負となるのは来期の2023年12月期です。

2023年12月期に増益基調に回帰できるのであれば、株価が再評価され上昇トレンドとなる可能性があります。

一方、さらなる減益、あるいはほぼ横ばいということになれば、株価は底なしの下落トレンドに陥るでしょう。

株価の下落目途は?

バルミューダの株価指標

成長期待が剥落した場合、割高な株価指標が是正され、株価が急落する可能性が考えられます。

バルミューダの株価指標は現時点(2022年11月9日終値)では以下の通りです。

バルミューダの株価指標
  • PER:12173.4倍
  • PBR:3.83倍

利益がわずか200万円、1株換算では0.24円のため、PERが1万倍超えという数字になっています。

これでは、赤字企業と同様にPERでの評価は不可能です。

一方、PBRは3.83倍となっており、こちらはグロース株として一般的な水準です。

株価1,000円もあり得る

PBRの観点からは、株価1,000円まで下落してもおかしくありません。

PBRは1倍が基準ですが、そこまで落ち込んだ場合の株価は723円です。

よほどの赤字を出さない限りそこまでは落ちないと思いますが、PBR1.4倍となる1,000円はあり得ると考えています。

本記事執筆時点の株価は2,771円ですが、PBRから見た下落余地はまだまだあります。

株価2,000円が1つの節目

バルミューダがIPOした際の売出価格は1,930円でした。

基本的に1,930円より下で買った人はいないため、売り圧力が弱まると期待できます。

また、2,000円という節目は心理的にも大きいでしょう。

したがって、2,000円が下げ止まりが期待できる1つの節目になりそうです。

スマートフォン事業が期待材料

2021年11月から本格的にスタートしたスマートフォン事業が今後の期待材料です。

スマートフォンの売上は2022年1~9月で3.55億円の売上となっており、通期では5億円ほどになりそうです。

BALMUDA Phoneの売上は3Q時点で3.55億円に達した。出典:2022年12月期 第3四半期決算説明資料

一方、当初の売上予想は27億円でした。

当初の予想ほど売れていないというのが実態で、正直厳しそう、というのが率直な感想です。

しかし、継続的にアップデートを行っており、まだヒット商品となる希望はあります。

ソフトバンクに採用されていることもあり、売上増加の土台は整っています。

予想に反して売上が伸びれば、株価反転の材料となるでしょう。

コロナショックでも下落しないソフトバンク株の強さとは?

バルミューダの懸念材料

部品価格・輸送費高騰の長期化

今後の懸念材料の筆頭は、新型コロナがもたらしている部品需給のひっ迫と、輸送費の高騰です。

2021年1~9月期はそれらの影響を受け、売上総利益率が前年度から-3.2%悪化し、40.5%に落ち込みました。

また、売上高販管費率は前年同期から+4.3%増加し、36.6%に上昇したことで利益を圧迫しています。

2021年12月期3Q時点では、利益率が3.2%悪化し、販管費は4.3%上昇した。出典:2021年12月期 第3四半期決算説明資料

これらの数値の悪化が結果的に減益につながっています。

新型コロナに起因する部品需給のひっ迫と輸送費の高騰は2022年も続くと見られ、業績の下押し要因となる懸念があります。

金利の上昇

長期金利の代表格である米国債10年物の金利は2022年1月に大きく上昇した。出典:三井住友銀行 マーケット情報チャート

金利の上昇はグロース銘柄の大敵です。

グロース銘柄の場合、将来発生する収益を現在価値に換算することで、割高な株価でも許容されるという性質があります。

しかし、金利が上昇すると将来の収益を現在価値に置き換える際の「割引率」が大きくなり、金利が低い場合と比べて現在価値が小さくなってしまいます。

DCF法による企業価値の算出式。金利が上がるほど割引率(r)が大きくなり、企業価値は減少する。出典:ユニヴィス

この理屈により、金利上昇局面では株価が下落方向に振れてしまうのです。

2022年は米国を中心に金利が上昇すると見られており、バルミューダの株価には逆風となるでしょう。

スマートフォン事業の撤退

バルミューダはスマートフォン事業に参入したが、成功するかどうかは未知数。将来的に撤退というリスクもある。

バルミューダスマホが成功するかどうかは現時点では未知数ですが、売れ行きが芳しくない場合、スマートフォン事業の撤退という事も考えられます。

バルミューダは製造設備を持たないファブレス企業ですので、事業撤退で巨額減損が発生するようなことにはなりませんが、期待先行で株価が上昇した反動は来るでしょう。

スマートフォン事業参入発表当時、株価はストップ高となりおよそ20%上昇しました。

撤退した場合は逆に-20%程度の株価下落となる可能性がありそうです。

業績予想と予想株価

2024年3月期までの売上計画「300億円」

バルミューダが発表している成長戦略によると、2026年までに売上高300億円超えを目指していることが読み取れます。

以下の図が2026年までの売上高の計画です。

クリーナー・携帯端末・新ジャンルを成長させることで2026年度に売上高300億円超えを狙う。出典:2021年12月期 第3四半期決算説明資料

2021年12月期は100億円あまりという売上高ですので、5年間でおよそ3倍という野心的な計画です。

内訳を見ると、空調、調理家電をベースとし、クリーナー、携帯端末、新ジャンルを成長させることで売上高300億円超えを狙います。

純利益は18億円程度に伸長

バルミューダの売上高利益率は6%ほどですので、売上高が300億円に達した場合、純利益は18億円ほどになるでしょう。

2021年12月期の純利益予想(9.3億円)からおよそ2倍に伸びる計算です。

発行済株式数が832万6,000株であることから、EPS(1株利益)はおよそ200円ほどになると予想されます。

PER50倍で「株価10,000円」

以上の業績計画が実現した場合の株価はどうなるでしょうか。

成長スピードは申し分ありませんので、株価指標は必然的に割高になり、PERは50倍程度まで許容されそうです。

EPSが200円であることから、【予想株価=EPS×PER】で次のように計算されます。

2026年の予想株価

予想株価=200円(EPS)×50倍(PER)=10,000円

現在株価(2022年1月11日時点)は3,735円ですので、ざっくり3倍という水準まで上昇することが期待できそうです。

弱気にPER30倍としても株価6,000円。いずれにしても、業績計画が実現すれば株価3,000円台は買いだったということになるでしょう。

まとめ

バルミューダの株価が下落した理由を分析した上で、今後の予想株価について考察しました。

足元の株価は軟調ではあるものの、その原因は新型コロナに起因しています。

市況の混乱が収まれば、再上昇に転じることが期待できる銘柄です。

売上計画の通りに「2026年度300億円」を達成できれば株価10,000円も射程圏内でしょう。

スマートフォン事業が軌道に乗るか、新ジャンルがうまく立ち上がるかといったハードルはあるものの、今後の株価上昇に期待できる銘柄だと考えています。